言葉の発達度合は将来の能力にどう関係するか

言葉の発達度合が最初はちがっていても、そのうちみんな同じくらいはなせるようになるから心配しなくて大丈夫ですよ、という話をよく聞きます。確かに、多くの子供は普通に会話ができるようになるということに間違いがありません。でも、これほど発達に差がみられたものが、将来的な能力の差に全くつながらないのでしょうか。

実は、乳児の時の言語発達度合の影響をまだうけている幼稚園入学時の子どもの言語能力は、小学校時代の成績を予測する最も良い指標の一つであることがいくつかの研究から示されています。つまり、言葉の発達がはやく幼稚園入学の時に言語能力が高かった子どもは小学校での成績が高かった、というのです。

残念ながら、中学生以上になったときまでの長期間、同じ子供を追跡している研究はありません。でもここで言えることは、子供の能力を高めたい、という思いで子育てをするときに大事なことの一つは、たくさんのお稽古事やお教室にかよわせることも大事ですが、赤ちゃんの頃から、どれだけの量をどんな風にはなしかけてあげたのか、も非常に重要になってくるということです。

子育て中の母親と父親の脳の違い

子育て経験が脳に与える影響を調べた研究があります。その研究では、(1)親の経験のない男性(2)親の経験のない女性(3)6~11カ月の乳児の父親(4)6~11カ月の乳児の母親、(5)二語文期である20カ月の幼児の母親(6)小学一年生の児童の母親。この6種類の人に、マザリーズを聞かせたときの脳活動を調べた結果、6~11カ月の乳児の母親の言語を司る脳の場所が最も活動していたことが分かりました。

6~11カ月の乳児は言葉を話せないにもかかわらず、母親の言語野で高い脳活動を示したことは、母親が乳児に何とか言葉を伝えようしていることを表しています。この活動は一過的で、20カ月以降の子供をもつ母親では見られなくなります。また、面白いことに、乳児の父親ではこのような脳の活動はみられませんでした。

さらに、産後うつにかかった母親はマザリーズを話さず、平坦な口調になることが知られています。そしてマザリーズを話さない状態が続くと、乳幼児へ悪影響を及ぼすこともあきらかになっています。

子育て中の悩みのなかの一つに、「話す相手がいない」というものが上位にあります。確かに言葉のキャッチボールはできないのですが、毎日たくさん赤ちゃんに話しかけてあげることは、非常に重要なことなのです。

<参考文献>
・Naja Ferjan Ramírez, Sarah Roseberry Lytle, and Patricia K. Kuhl, Parent coaching increases conversational turns and advances infant language development,PNAS, 117 (7) 3484‐3491;(2020)
・A. D. Pace, R. M. Alper, M. J. Burchinal, R. M. Golinkoff, K. Hirsh‐Pasek, Measuring success: Within and cross‐domain predictors of academic and social trajectories in elementary school. Early Child. Res. Q. 46, 112‐125 (2019).
・E. Hoff, Interpreting the early language trajectories of children from low‐SES and language minority homes: Implications for closing achievement gaps. Dev. Psychol. 49, 4‐14 (2013).
・L. Fenson et al., Variability in early communicative development. Monogr. Soc. Res. Child Dev. 59, 1‐173, discussion 174‐185 (1994).
・P. K. Kuhl et al., Phonetic learning as a pathway to language: New data and native language magnet theory expanded (NLM‐e). Philos. Trans. R. Soc. Lond. B Biol. Sci. 363, 979‐1000 (2008).

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細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
博士(医学)

東京大学大学院総合文化研究科研究員/科学技術振興機構さきがけ研究員/帝京大学医学部生理学講座助教。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科認知行動医学卒業後、英語学習による脳の可塑性研究を実施し、研究成果が多数のメディアに紹介。その研究をきっかけに、「目標達成できる人か?」を脳構造から判別するAIを作成し特許取得。現在は、プログラミング能力獲得と脳の関連性、 Virtual Realityを利用した学習法、恋愛と脳についても研究をしている。