「言葉の発達は女の子のほうが早い」は本当か
実はこれは非常に答えが曖昧になってきます。というのも、男女差があるという研究もあれば、男女差はないという研究もあるためです。おそらくこれは、あまりにも個人差が大きいため、結果がその時の実験ポピュレーションに依存していることが理由として考えられます。つまり、たまたまその実験には、言葉の早い男の子あるいは女の子が多くまざっていた可能性があるということです。そういった要因を除くために、実験被験者の数をかなりふやした場合には、女の子のほうが言葉の発達が早い傾向があると見られてきています。
ただしこのように微妙な差であり、「女の子のほうが言葉が早いから男の子は少しくらい遅くても安心」や「女の子なのに言葉がおそくて心配」という安直な考え方に結び付けるのは、間違っていそうです。
それでは、言葉の発達が早い子と遅い子は、何が違うのでしょうか?
世帯収入によって子供の語彙に違いが出る理由
ペアレンティーズ、あるいは、マザリーズという言葉を聞いたことがあるでしょうか?
母音を強調し、ピッチが高く、大げさな顔の表情もオマケにつけて、短くて簡単な言葉をくりかえす言葉を指します。この時、意味のない言葉(ばあなど)ではなく、「かわいいぃ子は、だあぁれ?」などというような意味のある言葉がけをすることを指します。
2020年2月に米国科学アカデミー紀要(PNAS)という権威ある雑誌に、生後半年の子供をもつ養育者が、このペアレンティーズという言葉の使い方の指導をうけながら子供と接していると、子供が18カ月(1歳半)になったときには、そのような話しかけをしていない親のもとに育った子供に比べて約2倍の言葉を話した、という成果が発表されました。
この研究以外にも、低所得家庭の親は、1時間に600語しか語りかけていないのに対して、学歴が高く高収入の家庭の親は1時間に2100語も語りかけているという差から、高所得者の子供のほうが言葉の発達が早い、ということも報告されています。この語りかけの差は、子供が4歳になるときには積もり積もって、4500万語(高学歴高収入家庭)vs1300万語(低所得家庭)になるのです。
また子供は、親の真似をして言葉を覚えていくため、どのくらい親の口元や表情に注意をしながら、相互にコミュニケーションをとっていたか、も言葉の発達に非常に重要な要素です。実際、双生児研究では、言葉の発達は基本的に環境要因が80%程度と示しています。つまり、子供の言葉の発達は、定型発達児の場合、男女差でも遺伝でもなく、生後まもなくから親がどのくらい(量)、かつ、どんな風に(質)はなしかけていたか、が最も重要になるのです。