子供の言葉の発達は親としては気になるもの。男の子より女の子のほうが話し始めるのが早いということもよく聞きますが、今年(2020年)になって発表された研究で、男女差や遺伝よりも大きく影響している要因が明らかになりました――。
幸せな家族に新生児
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Yagi‐Studio)

何が子供の言葉の発達を左右するか

乳幼児期の子供を育てている人にとって、我が子の言葉の発達はとても気になるところ。最初の関門が1歳半検診でしょうか。この時点ですでに、赤ちゃんによってかなり大きな言葉の発達の差があります。まだ一語も話さない子から早い子だと相当数の言葉を話し2語に近い言葉の使い方もできていたります。それが、2歳、3歳となっていくにつれ、言葉に対する理解や言葉の使い方(言語能力全般)の差にまで及んできて、ふと回りをみて焦るママ、パパも少なくないはずです。

言葉の発達は女の子のほうが早いから、下の子のほうが早いから、とか、心配しすぎなくてもそのうち話すようになるから大丈夫……。確かに、子供にとっては、養育者がナーバスになっていることのほうがよくないのかもしれません。

でも実際、言葉の発達が早い子と遅い子は何が違うのでしょう? 親にできることはあるのでしょうか。そして、言葉の発達の速さの違いは、将来的にもなにかしらの違いとして現れるものなのでしょうか。

「言葉の発達は女の子のほうが早い」は本当か

実はこれは非常に答えが曖昧になってきます。というのも、男女差があるという研究もあれば、男女差はないという研究もあるためです。おそらくこれは、あまりにも個人差が大きいため、結果がその時の実験ポピュレーションに依存していることが理由として考えられます。つまり、たまたまその実験には、言葉の早い男の子あるいは女の子が多くまざっていた可能性があるということです。そういった要因を除くために、実験被験者の数をかなりふやした場合には、女の子のほうが言葉の発達が早い傾向があると見られてきています。

ただしこのように微妙な差であり、「女の子のほうが言葉が早いから男の子は少しくらい遅くても安心」や「女の子なのに言葉がおそくて心配」という安直な考え方に結び付けるのは、間違っていそうです。

それでは、言葉の発達が早い子と遅い子は、何が違うのでしょうか?

世帯収入によって子供の語彙に違いが出る理由

ペアレンティーズ、あるいは、マザリーズという言葉を聞いたことがあるでしょうか?

母音を強調し、ピッチが高く、大げさな顔の表情もオマケにつけて、短くて簡単な言葉をくりかえす言葉を指します。この時、意味のない言葉(ばあなど)ではなく、「かわいいぃ子は、だあぁれ?」などというような意味のある言葉がけをすることを指します。

2020年2月に米国科学アカデミー紀要(PNAS)という権威ある雑誌に、生後半年の子供をもつ養育者が、このペアレンティーズという言葉の使い方の指導をうけながら子供と接していると、子供が18カ月(1歳半)になったときには、そのような話しかけをしていない親のもとに育った子供に比べて約2倍の言葉を話した、という成果が発表されました。

この研究以外にも、低所得家庭の親は、1時間に600語しか語りかけていないのに対して、学歴が高く高収入の家庭の親は1時間に2100語も語りかけているという差から、高所得者の子供のほうが言葉の発達が早い、ということも報告されています。この語りかけの差は、子供が4歳になるときには積もり積もって、4500万語(高学歴高収入家庭)vs1300万語(低所得家庭)になるのです。

また子供は、親の真似をして言葉を覚えていくため、どのくらい親の口元や表情に注意をしながら、相互にコミュニケーションをとっていたか、も言葉の発達に非常に重要な要素です。実際、双生児研究では、言葉の発達は基本的に環境要因が80%程度と示しています。つまり、子供の言葉の発達は、定型発達児の場合、男女差でも遺伝でもなく、生後まもなくから親がどのくらい(量)、かつ、どんな風に(質)はなしかけていたか、が最も重要になるのです。

言葉の発達度合は将来の能力にどう関係するか

言葉の発達度合が最初はちがっていても、そのうちみんな同じくらいはなせるようになるから心配しなくて大丈夫ですよ、という話をよく聞きます。確かに、多くの子供は普通に会話ができるようになるということに間違いがありません。でも、これほど発達に差がみられたものが、将来的な能力の差に全くつながらないのでしょうか。

実は、乳児の時の言語発達度合の影響をまだうけている幼稚園入学時の子どもの言語能力は、小学校時代の成績を予測する最も良い指標の一つであることがいくつかの研究から示されています。つまり、言葉の発達がはやく幼稚園入学の時に言語能力が高かった子どもは小学校での成績が高かった、というのです。

残念ながら、中学生以上になったときまでの長期間、同じ子供を追跡している研究はありません。でもここで言えることは、子供の能力を高めたい、という思いで子育てをするときに大事なことの一つは、たくさんのお稽古事やお教室にかよわせることも大事ですが、赤ちゃんの頃から、どれだけの量をどんな風にはなしかけてあげたのか、も非常に重要になってくるということです。

子育て中の母親と父親の脳の違い

子育て経験が脳に与える影響を調べた研究があります。その研究では、(1)親の経験のない男性(2)親の経験のない女性(3)6~11カ月の乳児の父親(4)6~11カ月の乳児の母親、(5)二語文期である20カ月の幼児の母親(6)小学一年生の児童の母親。この6種類の人に、マザリーズを聞かせたときの脳活動を調べた結果、6~11カ月の乳児の母親の言語を司る脳の場所が最も活動していたことが分かりました。

6~11カ月の乳児は言葉を話せないにもかかわらず、母親の言語野で高い脳活動を示したことは、母親が乳児に何とか言葉を伝えようしていることを表しています。この活動は一過的で、20カ月以降の子供をもつ母親では見られなくなります。また、面白いことに、乳児の父親ではこのような脳の活動はみられませんでした。

さらに、産後うつにかかった母親はマザリーズを話さず、平坦な口調になることが知られています。そしてマザリーズを話さない状態が続くと、乳幼児へ悪影響を及ぼすこともあきらかになっています。

子育て中の悩みのなかの一つに、「話す相手がいない」というものが上位にあります。確かに言葉のキャッチボールはできないのですが、毎日たくさん赤ちゃんに話しかけてあげることは、非常に重要なことなのです。

<参考文献>
・Naja Ferjan Ramírez, Sarah Roseberry Lytle, and Patricia K. Kuhl, Parent coaching increases conversational turns and advances infant language development,PNAS, 117 (7) 3484‐3491;(2020)
・A. D. Pace, R. M. Alper, M. J. Burchinal, R. M. Golinkoff, K. Hirsh‐Pasek, Measuring success: Within and cross‐domain predictors of academic and social trajectories in elementary school. Early Child. Res. Q. 46, 112‐125 (2019).
・E. Hoff, Interpreting the early language trajectories of children from low‐SES and language minority homes: Implications for closing achievement gaps. Dev. Psychol. 49, 4‐14 (2013).
・L. Fenson et al., Variability in early communicative development. Monogr. Soc. Res. Child Dev. 59, 1‐173, discussion 174‐185 (1994).
・P. K. Kuhl et al., Phonetic learning as a pathway to language: New data and native language magnet theory expanded (NLM‐e). Philos. Trans. R. Soc. Lond. B Biol. Sci. 363, 979‐1000 (2008).