2025年以降、働き盛りの社員が休暇ラッシュ
こうした不平等には批判の声も多いため、企業の足並みはこれからゆっくりと揃っていくと考えられます。ただし、変わっていけるのは体力のある大企業から。中小企業の足並みが揃うのはその後になるでしょう。
介護問題は中小企業にとっては大きな課題です。介護は未婚の人にも訪れるため、出産や育児よりさらに多くの社員が制度を利用する可能性があります。このインパクトは非常に大きく、しかも中小企業の場合は、誰かが休みに入ったからといってすぐに代替要員を手配するのも難しいでしょう。
担当者不在の状態が続いたり、新たに人を雇ったりすれば利益率に響きます。そして団塊の世代がすべて後期高齢者になる2025年以降は、働き盛りの社員が一斉に休む可能性が一段と高まります。今後は国全体で、介護問題と中小企業に関する議論も進めていかなければなりません。
夫婦それぞれが自分の親を介護する「個別化」の時代が来ていること、そのため今後は男性も介護休暇・休業をとるであろうこと、遠距離介護が増えそうなこと──。これからは、働く女性や男性はもちろん、企業もそうした前提に立って考える必要があります。
きょうだい間での押し付け合いが増える可能性
最後に、この先個別化が進んでいけば、夫婦間で介護を押しつけ合うようなケースは減りそうです。ただ、その分、きょうだい間での「押しつけ合い」は増えるかもしれません。そんな時、一般的には女性(きょうだいのなかに女性がいれば)にお鉢が回ってきがちです。つまり、介護においては夫婦間のジェンダー平等からきょうだい間のジェンダー平等に問題がシフトしていくのです。
残念ながら、たとえフルタイムで働いていても「育児や介護は女性がすべき」と思い込んでいる男性もいます。本来は、男女問わず皆で力を合わせて、会社の制度や地域のサポートを活用しながら、誰もが無理なく仕事と介護を両立できる形を目指すべきでしょう。
仕事との両立という面では、介護にはまだまだ多くの課題があります。ただ、女性だけが介護を理由にキャリアを断念するような事態は、この先少しずつ減っていくはず。介護は男性にも独身者にも同じように訪れるという認識のもと、父系社会時代の価値観が変わり、企業の取り組みが進むことを期待しています。
構成=辻村洋子 写真=iStock.com
1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。