“女性は収入への遺伝的影響がほぼゼロ”の意味
上記同様の研究において、女性の場合には、生涯にわたって収入における遺伝的影響はほぼない、という結論がでています。原因は、就労している女性と就労していない女性を区別せずに研究対象としているためです。
さらに、遺伝的に高い収入をえられる可能性がある人も、なんらかの理由(おそらくは、就労していないか、パートタイム)で、収入が少ない、という人を多く含んでいると考えられます。つまり、生物的な性差で収入への遺伝的影響が少ないということではなく、女性の社会進出の在り方を反映した結果なのです。
今後の研究では、男性よりもバラエティにとむ女性の生き方について検討した上での研究(正規雇用の女性労働者や専業主婦等を分けるなど)が必要になってくるでしょう。一方、そのような研究上の配慮をする必要がないくらいに、高い収入を得られる可能性を秘めた女性が、家庭との両立等に縛られることなく男性と同様に社会進出し、その能力を発揮できるような社会システムを構築することも急務だと思います。
大事なのは遺伝子が開花する環境を持てるかどうか
遺伝要因が同じ一卵性双生児で、育った環境も同じ場合に、教育歴が違うと収入がどの程度異なるかを調査した研究があります。その結果、複数の研究から、「教育的投資を行った場合、収入に対する影響は10%程度」という結論が出ています。10%と聞くと、少ないという印象を受ける人も多いかもしれませんが、より良い教育環境を与えることが、10%も収入に与える影響があるというのは、非常に大きな影響といえます。
もう一つの重要なことは、どんなに遺伝的に有能なものがあったとしても、努力無しには発揮されない、ということです。実際、貧困層に生まれ教育環境が良くない場合には、どれだけ優秀な遺伝子をもっていても、能力が発揮されないということも示されています。
一連の研究からいえることは、少なくともこれらの研究がなされていたそれほど昔ではない社会においては、遺伝的に知能レベルが高くなる傾向の人が、収入も高くなるような社会であるということです。社会の体制、社会の評価基準が変わってくれば、これらの研究結果は異なるものとなってくるかもしれませんが、いずれにしても自分の持って生まれた素質が花開くように自分自身をスキルアップさせる意志を持ち、そのような環境に身を置くことが大事です。大人になるにつれ「経験値や専門性がついてきた」「忙しい」「もう先が見えている」などと言い訳をして手抜きをしがちですが、それではいけないのです。
‐W. David Hill et al,“Genome-wide analysis identifies molecular systems and 149 genetic loci associated with income”, Nature Communications volume 10, Article number:5741(2019)
‐Ando J,et al. “Two cohort and three independent anonymous twin projects at the Keio Twin Research Center(KoTReC)”. Twin Res Hum Genet, 16:202-216, 2013
‐Davis OSP, Haworth CMA, Plomin R. “Learning abilities and disabilities:Generalist genes in early adolescence. “Cogn Neuropsychiatry, 14:312-331, 2009
‐Tucker-Drob EM, Briley DA. “Continuity of genetic and environmental influences on cognition across the life span:a meta-analysis of longitudinal twin and adoption studies.” Psychol Bull, 140(4):949-979, 2014
‐Yamagata S, Nakamuro M, Inui T. Inequality of opportunity in Japan:A behavioral genetic approach. RIETI Discussion Paper Series, 13-R-097, 2013
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内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。