「ホワイトハウスのオフィシャルな演説では、官僚が用意した草稿を読み上げますが、その中に前述のようにアドリブを入れてしまう。多くの支援者の前で演説すると気分が高揚して、聴衆が盛り上がるようなネタを入れたくなるのでしょう」
その一方で、トランプ大統領のしたたかな戦略家としての資質も見逃せないと、中林さんは続ける。
「前回の大統領選で、トランプ氏は最初キワモノ扱いされていたのに、優勢だったクリントン氏をおさえて当選できたのも彼の優れた選挙戦略にあります。ツイッターやアドリブ演説も、戦略的に発言している場合があるのです」
彼が発信した数字は、全くの嘘の場合もあるが、わざと誤解したり誇張する、もしくは前後の文脈から離れた表現も多い。例をみてみよう。①はイラク戦争に関する10年間の経費。ブラウン大学での見積もりでは1.7兆ドルの数字を、大差ないと思ったのかざっくり2兆ドルと発表。②は戦闘機調達コストの削減について。トランプ大統領がそのコスト削減に関与する前から空軍が6億ドル以上の削減を発表していた。
しかし、あたかも彼の力だけで節約できているかのように発言。③は中国との貿易赤字について。米商務省経済分析局によると2016年の全体の正しい赤字額は3100億ドルだが、実際より1940億ドルも多く貿易赤字があると発言した。
あやふやで不確かな数字を、発言の中に上手に織り込んで、あたかも真実のような印象を聞く人に与えるという“高等テクニック”を駆使している。しかし、対日本の貿易赤字額、在日米軍への日本の支出額など、トランプ大統領が発する数字が不確かであると、我々日本人にとっては大きな痛手になることも。「この数字は本当なのか」といった疑いの目を持ち、メディアのファクトチェックなどを検証すべきだろう。
フォロワー数が急変したら偽アカを疑え!
中林さん同様、ツイッターの危険性を説くのがフリージャーナリストの烏賀陽弘道さんだ。
「ツイッターは“治安の悪い”メディアです。なぜなら本人確認が不要なので、他人になりすましてアカウントを無制限に作ることができるからです。これがツイッターの致命的な欠陥で、偽アカウントの温床になっています。ツイッター社自体もそれを察知して、18年に数千万規模の偽アカウントを削除しました」
これにより、著名人のフォロワー数が激減した。たとえばアメリカの人気歌手であるケイティ・ペリーとレディー・ガガはともに約250万人、オバマ米前大統領は約210万人もフォロワー数が減少。急激なフォロワー数の変動は、偽アカウントが関与していることの証しでもある。しかしこのように情報がフェイクと判明したのは相当まれなケースだ。トランプ大統領の発言ならファクトチェックという機能があるが、それ以外のツイッター上に流布するニュースや数字の真偽を追究するのは大変難しい。