ジョー・バイデン大統領が誕生して1カ月。世界のリーダーとして、常にその動向や資質に注目が集まる米大統領について、代々木ゼミナールのカリスマ講師である蔭山克秀先生が解説する連載の第2回目、テーマは今改めておさらいする「トランプ的手法」とは何だったのか――。
ドナルド・トランプ
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声なき声に押されて誕生したトランプ政権

2016年、大方の予想を裏切って大統領選に勝利したのは、民主党のヒラリー・クリントン候補ではなく、共和党のドナルド・トランプ候補でした。彼が掲げたスローガンは「America First(アメリカ第一主義)」、つまり国際協調よりもアメリカの国益を最優先に考えるというもので、従来のエリート主義の政治をやめ、「国民の力で」世界に分散したアメリカの富を取り戻すことを呼びかけました。

国益のために国際協調を捨て、国民が政治家から政治権力を取り戻す……ここまでくると、もはや清々しささえ感じるほどの、見事な反グローバリズムとポピュリズムの宣言です。ポピュリズムとは「大衆主義」と訳される政治のあり方で、一見すると国民の声に耳を傾ける、とても民主的な政治ですが、ネガティブな訳だと「大衆迎合主義・衆愚政治」となる、とても危険な言葉です。ちなみに私は予備校で、その特徴を「既得権やエリート主義、知識人への反発/カリスマ的なリーダーが扇動/問題を単純化し、理性よりも感情に訴える/政策が民意次第でぶれ、一貫性がなくなる」と教えています。

そしてトランプ氏は、それを実現するために、「メキシコとの国境に壁をつくる(不法移民対策)」「イスラム教徒の入国禁止(テロ対策)」「パリ協定からの離脱(地球温暖化はでっち上げだから)」「TPPからの離脱(不公平で最悪の協定だから)」「同盟国への負担増額要求(アメリカの労力に見合っていないから)」などの公約を掲げました。これらは、いずれも従来の政策から大きく逸脱するものばかりでしたが、彼はそのほとんどを、ためらうことなく実施あるいは着手しました。

こんな型破りな大統領を支持したのが「プアホワイト」です。以前も触れましたが、プアホワイトとは「貧困にあえぐ白人労働者層」で、彼らの多くはワシントンから遠く離れた「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」の工場労働者です。彼らは貧困にあえいでいるのに、マイノリティ重視の民主党の救済プログラムから取り残されてしまいました。彼らは元来、民主党のエリートも共和党の金持ちも嫌いですが、トランプ氏は別です。なぜなら彼の示す政策は、どれもプアホワイトの目線の高さに合っているからです。結局トランプ氏は、民主党のリベラル路線から取り残された、アメリカの地方にくすぶる大量の「声なき声」に支えられて大統領になり、数々の型破りな政策を実行しました。そして、その結果、「アメリカ社会を分断させた」と言われるようになってしまったのです。