満足できないたばこを併用してもらえるワケ

さらに江田さん同様に開発に携わる木下由美子さんは、プルーム・テックは紙巻きたばことの併用率が高いことをユーザーのアンケートから突き止めた。「プルーム・テックを含む加熱式たばこと、紙巻きたばこを併用する人がかなり多かったんです。プルーム・テックは吸いごたえが足りないのに、なぜ併用して吸ってもらえるのかというと、家のリビングでも吸える、接客業の人が仕事の合間に吸えるほどにおいがない、つまり他者への配慮ができるということが大きなポイント。この点をそのまま継続することに、プルーム・テック・プラスのチャンスがあると思いました」

その結果プルーム・テック・プラスは、加熱式たばこユーザーの約9割が「吸いごたえに満足している」という結果に(18年のJTによる調査、総数200)。

当初の“満足していない”という意見は開発者にとって、愛情を持って生み育てたわが子を否定されることに等しい。しかし耳に痛い意見は宝にもなりうる。ユーザーの不満の声を逆手にとって、満足度が高い商品を生み出した成功例だ。

そしてプロモーションの一環として成功したのが説明販売会。企業の喫煙所に行って使い方などを詳しく説明し、理解したうえで買ってもらう。商品はイマドキだが、ユーザーに直接会って“手売り”する。時代がどれだけ進化しようとも、人との触れ合いが大事なのだろう。

さて、2人は日頃どんな数字に着目しているのか。木下さんは「加工されていない生のデータ(ローデータ)」を見ることが好き。「ローデータを丹念に見ていると、ある人の購買ストーリーが浮かび上がります。『ここで買うのをやめているのはなぜ?』とか、『たばこの銘柄を変えているのはなぜ?』など。これらの“なぜ”から原因を探り、仮説を立てることもあります」

一方の江田さんはもともとデザイナーであり、数字が苦手だった。しかし自分が設定した調査項目の数字や売り上げデータを積極的に見ることで、その数字に興味や愛着が湧くという。苦手意識を持たずにどんどん自分から数字に近づいていくこと。それがマーケティング感覚を研ぎ澄ませるために必要なのだろう。

江田雅美
JT たばこ事業本部 マーケティンググループ 商品企画部
1984年生まれ。2011年にJT入社後、デザイナーとしてブランド企画部に配属。CRM推進部を経て18年に現職。プルーム・テックなどの商品開発に携わる。
 

木下由美子
JT たばこ事業本部 マーケティンググループ 商品企画部
1987年生まれ。2016年にJT入社。EPマーケティング部でリサーチ担当に。19年に現職となり、プルームアクセサリー事業に関して開発から事業管理まで行う。
 

撮影=平松唯加子、花村謙太朗

東野 りか
フリーランスライター・エディター

ファッション系出版社、教育系出版事業会社の編集者を経て、フリーに。以降、国内外の旅、地方活性と起業などを中心に雑誌やウェブで執筆。生涯をかけて追いたいテーマは「あらゆる宗教の建築物」「エリザベス女王」。編集・ライターの傍ら、気まぐれ営業のスナックも開催し、人々の声に耳を傾けている。