不満の声に真摯に耳を傾け満足させる商品を生み出した

喫煙者が減る昨今、愛煙家はどんどん肩身の狭い思いをしている。喫煙可能な場所が減ったり、周囲の人に対するにおいの問題であったり。最近では隣で吸っていても他人に気づかれないほどにおいが出ない、かつ健康懸念物質が少ない低温加熱型の加熱式たばこが人気となっている。

JT たばこ事業本部 マーケティンググループ 商品企画部 木下由美子さん(左)江田雅美さん(右)

その1つがJTから2019年1月に発売されたプルーム・テック・プラスだ。これは先行品であるプルーム・テックに、愛煙家には欠かせない“吸いごたえ”を加えたもの。プルーム・テック・プラスの開発担当者の江田雅美さんは語る。

2017年発売の加熱式たばこ「プルーム・テック」に吸いごたえをプラス。専用たばこカプセル(500円)とスターターキット(4980円)。

「先行のプルーム・テックは多くの方にご愛用いただいていますが、調査した結果、吸いごたえに対して『満足していない』『あまり満足していない』という答えが半数近くの44%もあって……。不満を持つ方々に、プルーム・テックへの要望を伺ったところ、ほとんどが“吸いごたえをより強化してほしい”という答えでした」

ここが悩ましい。通常の紙巻きたばこの愛用者は、周囲から嫌がられるというストレスを常に抱えている。その点、プルーム・テックならばストレスもなく吸うことができる。しかし「たばこを吸っている感がもっとほしい!」というジレンマが、ユーザーにはあったのだ。

満足できないたばこを併用してもらえるワケ

さらに江田さん同様に開発に携わる木下由美子さんは、プルーム・テックは紙巻きたばことの併用率が高いことをユーザーのアンケートから突き止めた。「プルーム・テックを含む加熱式たばこと、紙巻きたばこを併用する人がかなり多かったんです。プルーム・テックは吸いごたえが足りないのに、なぜ併用して吸ってもらえるのかというと、家のリビングでも吸える、接客業の人が仕事の合間に吸えるほどにおいがない、つまり他者への配慮ができるということが大きなポイント。この点をそのまま継続することに、プルーム・テック・プラスのチャンスがあると思いました」

その結果プルーム・テック・プラスは、加熱式たばこユーザーの約9割が「吸いごたえに満足している」という結果に(18年のJTによる調査、総数200)。

当初の“満足していない”という意見は開発者にとって、愛情を持って生み育てたわが子を否定されることに等しい。しかし耳に痛い意見は宝にもなりうる。ユーザーの不満の声を逆手にとって、満足度が高い商品を生み出した成功例だ。

そしてプロモーションの一環として成功したのが説明販売会。企業の喫煙所に行って使い方などを詳しく説明し、理解したうえで買ってもらう。商品はイマドキだが、ユーザーに直接会って“手売り”する。時代がどれだけ進化しようとも、人との触れ合いが大事なのだろう。

さて、2人は日頃どんな数字に着目しているのか。木下さんは「加工されていない生のデータ(ローデータ)」を見ることが好き。「ローデータを丹念に見ていると、ある人の購買ストーリーが浮かび上がります。『ここで買うのをやめているのはなぜ?』とか、『たばこの銘柄を変えているのはなぜ?』など。これらの“なぜ”から原因を探り、仮説を立てることもあります」

一方の江田さんはもともとデザイナーであり、数字が苦手だった。しかし自分が設定した調査項目の数字や売り上げデータを積極的に見ることで、その数字に興味や愛着が湧くという。苦手意識を持たずにどんどん自分から数字に近づいていくこと。それがマーケティング感覚を研ぎ澄ませるために必要なのだろう。

江田雅美
JT たばこ事業本部 マーケティンググループ 商品企画部
1984年生まれ。2011年にJT入社後、デザイナーとしてブランド企画部に配属。CRM推進部を経て18年に現職。プルーム・テックなどの商品開発に携わる。
 

木下由美子
JT たばこ事業本部 マーケティンググループ 商品企画部
1987年生まれ。2016年にJT入社。EPマーケティング部でリサーチ担当に。19年に現職となり、プルームアクセサリー事業に関して開発から事業管理まで行う。