自分を変えた「7時間ウォーキング」
最初のアドバイスは「自分を応援してくれるファンを作ろうと意識すること」。自分の存在を知ってもらうために、SNSへの露出を途切れさせないことも課題だった。そこから、収益化しやすいインスタを中心に、投稿を続ける毎日が始まった。
「それまでSNSはほとんど使ったことがなく、フォローとフォロワーの違いも分かりませんでした。投稿内容も思い付かず、道ばたを歩いていた猫を撮影したりすることも。面倒くさがりだったこともあり、続けることの難しさを感じていました」
まもなく、櫻井さんはオーナーから「一緒にウォーキングをやらないか」と誘いを受けた。初めは店のある大久保から渋谷まで、片道1時間以上掛けて共に歩いた。やがて自由が丘、さらには横浜と目的地が遠ざかり、ついにウォーキングタイムは7時間に及んだ。
フードコーディネーターの仕事とは全く関係のないことだけに「何のためにこんなことをするのだろう」と疑念がよぎり、もともと運動神経がよいほうでもなかった櫻井さんは、疲れがたまって反発心が芽生えることもあった。
けれど、自分でやろうと決めたのだから、途中で投げ出したくなかった。弱気で受け身な自分を、どうにか変えたかった。今はオーナーを信じて付いて行こう――。そう決めた櫻井さんは、7時間のウォーキング、SNSへの投稿、鯖バーガーの新メニュー開発を日課として、ただひたすら打ち込み続けた。
そうして、半年が過ぎた頃。ひたむきに続けて来た努力の成果が表れ始めた。
「腹筋」と一緒に鍛えられたもの
まず変化したのは肉体だ。ウォーキングと同時期に始めた筋トレの効果も加わって全体的に引き締まり、腹筋が目立つようになった。有酸素運動と筋トレのダイエット効果を実感してうれしくなっていたところ、「その腹筋は、発信して人に見せた方がいい」とオーナーから強く勧められた。恥ずかしさに戸惑いながらも、トレーニングウエアの自撮り写真を投稿してみたところ、瞬く間にフォロワー数が3万人増えた。
それこそがオーナーの狙いだった。鍛え上げられた腹筋のインパクトは大きい。その人が長期にわたって努力を継続してきたことの証しだ。しんどくて人が敬遠しがちな努力をひたすら続ける姿は、勇気と感銘を与え、自然と応援の気持ちを呼び起こす。フードコーディネーターとして活躍し、エプロン姿が似合う癒やし系の櫻井さんから受けるイメージとのギャップも、多くの人の興味を刺激するのに功を奏した。
「声のトーンが高く、やわらかいイメージが強かったからか、企業の年上の男性に向けて鯖バーガーをプレゼンする際、どこかなめられているような上から目線の対応をされることが多かったんです。それが、腹筋バキバキの投稿が話題になったことで、信頼も得られるようになっていきました」
「面倒くさがりのうえ、運動神経がない。それだけではなく話すことも苦手だったんです」と苦笑する櫻井さん。ウォーキングは、腹筋以外にも、数々の副産物をもたらした。一緒に歩く間は会話しかすることがないので、必死になって頭を回転させながら話題を見つけ、話をつないだ。自然と質問力やトーク力が身に付き、苦手だったプレゼンやイベントでのMCが苦も無くこなせるようになっていた。なによりメンタルが鍛えられ、「やる気になればなんだってできる」という大きな自信を手に入れた。