女性は男性からも女性からも協力が得られにくい?

次に、仕事の協力体制についての研究を見ていきましょう。同じ職業についている“男性から男性に”仕事に関する妥当な協力要請があった場合、相手の職位にかかわらず、要請された男性は協力的な対応をとる確率が高いと報告されています。ところが、“女性から男性”に協力を要請した場合だと、協力的な対応がみられる率が低くなり、さらに女性の立場によって男性の協力度合が違うことが示されています。

また、“女性から女性”に協力を要請した場合も、協力率が下がることがわかっています。一方で、“男性から女性”に要請があった場合には、協力的な対応がみられるというのです。男性は同性に対して協力的で、女性は異性に対しての方が協力的。つまり、女性は男性からも女性からも協力が得られにくいということが言えます。

なぜ、女性は女性から協力を得にくいのか

女性―女性協力率が低くなったのは、女性のほうがポジションが少なくキャリア競争が激しいため、ほかの女性に出し抜かれてしまう恐怖を抱いたせいではないかと解釈されています。一方、男性同士の組み合わせで協力率が高くなったのは、進化の歴史が関係している可能性があり、集団闘争で他のグループに対抗するため、男性同士は結束する必要があったためではないかとされています。そのため、女性が男性に協力を求めた場合には、仲間として認められるような、男性と同じかあるいはそれ以上の職位の女性に対してのみ協力的になったと考えられます。

これは、男性は協力的な特性を持ち、女性は非協力な特性を持つという話ではなく、“「男社会」という環境が、男性の集団意識を強化して協力的にし、女性の自分だけが特別にならなくてはという意識を生み、非協力的にしている”ということなのです。

このように、「評価」にも「攻撃」にも「協力」にも、性差によるバイアスが存在します。しかも働く女性にとって不利になる面が多く見られるのです。まずはその事実を知ることが大切。そしてそれを克服するためには、男社会を崩していくこと。男性だけの同質性の中で組織を回すよりも、多数の女性も組織に参画しながら、より密なコミュニケーションをとることが必要です。本当は女性同士でいがみ合っている場合ではないのです。

<参考文献>
・Ellemers, N.; van den Heuvel, H. (2004). "The underrepresentation of women in science: differential commitment or the queen bee syndrome?". British Journal of Social Psychology. 43 (September): 313‐338.
・Derks, Belle; Van Laar, Colette; Ellemers, Naomi; De Groot, Kim (2011). "Gender‐Bias Primes Elicit Queen‐Bee Responses Among Senior Policewomen". Psychological Science. 22 (10): 1243‐1249.
・Arvate, Paulo Roberto; Galilea, Gisele Walczak; Todescat, Isabela (2018‐10‐01). "The queen bee: A myth? The effect of top‐level female leadership on subordinate females". The Leadership Quarterly. 29 (5): 533‐548
・Cristian L Dezsö, David Gaddis Ross; "Does female representation in top management improve firm performance? A panel data investigation" Strategic Management Journal. 33(9) 1072‐1089
・Jorg J. M. Massen et al. "Sharing of science is most likely among male scientists" Scientific Reports | 7: 12927

写真=iStock.com

細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学大学院情報科学研究科 加齢医学研究所認知行動脳科学研究分野准教授

内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。