働きたいのに仕事がないという人に就農を支援するえと菜園の小島希世子さん。「就農プログラム」はビジネスグランプリで最優秀賞をとるほど評価されたが、実現には大変な苦労があった。人生に行き詰まり、生きる希望を失いかけて小島さんの元を訪れた人たちは、どう自信を取り戻していくのか。実話を紹介する――。

※本稿は小島希世子『農で輝く!ホームレスや引きこもりが人生を取り戻す奇跡の農園』(河出書房新社)を再編集したものです

元ネットカフェ難民だった吉田さん(仮名)の実話

ホームレスの置かれている現状や、彼らの抱えている問題について、理屈は理解できても、現実の彼らの苦悩やもどかしさは理解しづらいと思う。そこで、実際のエピソードを紹介したい。

撮影=柿崎真子

以前、うちの農園に研修にきていたある男性の話だ。彼のエピソードを通して、ホームレスになる人はホームレスになりやすい背景があること、また、ホームレス特有の心の問題を抱えていることがわかってもらえるのではと思う。

吉田さんは親から虐待を受けて育った30代の男性だ。子どもの頃から親に心ない言葉を浴びせられ、しつけという名の体罰を受け続けた。いつもオドオドとしている彼は学校でもいじめに遭った。

中学を卒業してからは新聞配達の仕事を得たが、給料はもらったその日に親に渡し、吉田さん本人が自由に使える小遣いは月に500円玉1枚だけ。それすらもらえない月もあった。配達中にのどが渇いても、ジュースを買うお金がなかった。だけど、こわくて、もっと小遣いをくれというようなことは口が裂けても言えない。