失敗を糧に可能性の扉を開けていく努力を
次に、私自身がリーダーとして心がけてきたことを5つお伝えします。1つめは「KT(壊して作る)マインド」。組織には、壊してみないと見えてこないことがたくさんあります。このままじゃ硬直するなと思ったら、チームを再編するなどして壊してみること。その際は、ダメだから壊すのではなく、もっとこうなりたいから壊すのだと丁寧に説明して、ビジョンの共有に努めます。
ただ、再編はメンバーにとってはストレスですから、壊した後は「自信と期待」を感じられるよう工夫します。3カ月程度で短期的成果を上げられるように持っていき、自信をつけたところで「じゃあもっと上を目指せるよね」と期待値を語るのです。そのためにもまめに中間進捗を確認し、達成が難しそうならリカバリーを図るようにしています。
2つめは、「叱られる」と「大失敗」は経験アップのチャンスと捉えること。私もこれまでに何度も失敗し、夜に思い返してはふとんの中でジタバタしたものでした。同じ失敗を繰り返すことも少なくありませんが、それでも経験を積むうちに、失敗からのリカバリー方法が分かってきます。
私は、これまでに叱られてきた言葉を手帳に書きためています。毎年末、「これは来年も大事にしよう」と思える言葉を新しい手帳に書き写しているんですよ。後で見直すと、叱られた意味が急に分かったり思考が広がったりと、役に立つことがたくさんあります。最近は残念ながら立場上叱られる機会が減ったので(笑)、メンバーに気づかされたことや本を読んで感銘を受けた言葉も書いています。この手帳は私の宝物ですね。
3つめは、部下に対する「個性の尊重」。部下はジェンダーも年齢も社歴もさまざまですが、「認められたい」「役に立ちたい」という思いは誰もが持っています。そこを汲み取って、個性を認めた上で力を発揮できるようにしてあげるのが私の役目かなと思っています。
4つめは「弱いところを見せて頼るべきところは頼る」。リーダーは万能ではないということですね。そして5つめは「結果の質を高めるためには、関係、思考、行動の質を高めよ」ということ。これは、MIT教授のダニエル・キム氏が提唱している考え方です。
企業人は、ともすると成果や業績といった「結果の質」を真っ先に求めがち。でも、これは上司との関係の質や、部下の思考・行動の質を高めて初めて達成できるものです。回り道に思えるかもしれませんが、結果を求めるならまず心理的安全性のある関係を構築するところから。それはやがて結果につながり、さらに関係の質を高めるという好循環を組織の中に生み出します。
リーダーの役割は、ビジョンを見せて道筋を作ること。現状に突破口を見つけ、小さなことでいいから短期的成果を上げて、説得力と周囲の信頼を獲得してください。組織改革でもプロジェクトでも、リーダーがあきらめたらそこで終わり。逃げない、愚痴らない、笑顔の3つを大切に、もちろん家族との時間も大切にしながら、自らの可能性を切り拓いていっていただきたいと思います。可能性の扉は自動ドアではありません。一歩踏み出す勇気を持って、ともに扉を開けていきましょう。
文=辻村洋子
1991年、東京女子大学卒業後、ポーラ化粧品本舗(現ポーラ)入社。まもなく販売会社に出向し、埼玉エリアマネージャー、商品企画部長を歴任後、2012年に執行役員、14年に取締役就任。20年より現職。