自主性や神経質傾向の違いが出る本当の理由

ただし、論文上にも記載されている、この研究結果について理解する上で最も重要なことは以下の通りです。

「保育園児は、長時間におよぶ集団生活の中で自立を促され、自分のことは自分でやるように促されています。そのため、園生活においては、自分のことをきちんと自分で行います。ところが、母親と同席する場面(実験下や家庭内等)では、その反動で母親に甘え、依存的になる傾向が出てくるのです」

つまり、その後の小学校生活や、お友達のお家に行った時などに、きちんと自分の身の回りのことを自身でできるかどうかは、幼稚園児でも保育園児でも違いはないのです。

一方、幼稚園児の方が保育園児よりも精神反応過敏性を有していた(神経質な傾向があった)、というのは、母子密着の度合いが高いと、親も子も新しい経験に緊張したり過敏になったり、周囲の物事を気にする傾向が強くなるためです。そのほかの、自制力、攻撃性、園への適応、体質的不安定などの項目には、幼稚園児と保育園児で差は認められていません。幼稚園児や保育園児というカテゴリーで比較してみえているように感じている違いは、実はあくまで家庭環境による「個人差」なのでしょう。

どちらも科学的根拠のない“神話”

子供を預ける時間の長さは、発達に影響するか

保育園児だからといって幼稚園児に比べて自主性が低い、攻撃性が高い、ということが真実ではないことにホッとしたところですが、幼稚園と保育園で最も違うことの一つは、預ける時間の長さでしょう。この時間の長さは、子供の発達に影響するのでしょうか?

アメリカの国立小児保健・人間発達研究所(NICHD)が子供の発達と保育との関係を明らかにするために、全米から1300人ほどの新生児を選んで、追跡調査を行い、出生から4歳半までの研究成果をまとめ発表しています。その中で、4歳半になるまでに母親以外に保育されている(保育園、幼稚園、祖父母、シッターなど)時間が長い子供は、その時間が短い子に比べて問題行動が少し多めに見られることを報告しています。

このアメリカの大規模な調査結果を見ると、子供を長時間預けることに対して不安になりますが、日本で認可保育園児232人を対象に長時間保育が子供の発達に及ぼす影響について追跡調査を行った結果では、保育時間の長さと5年後の子供たちの発達や問題行動に関連が見られませんでした。つまり、日本の質の保たれた保育環境では、長時間子供を預けても、その子供の発達に悪影響がでたり、問題行動が増えることにはつながらないことが明らかにされているのです。