初の管理職で得た“チームづくりの極意”

40代半ば、大宮支店の営業課長にキャリアアップ。初めての管理職だったが、自ら手を挙げたわけではない。「辞令を受けたので」、やるしかないと腹をくくっての出発だった。

「その時は子どもが4人になっていたので、両立しきれなくてまた皆に迷惑をかけるのではと不安だったんです。でも、平日は義母が家事育児をサポートしてくれることになったので、じゃあせめて週末は自分で精いっぱいやろうと。職場で『土日は絶対に出社しないから』と宣言しました(笑)」

初めての管理職では、部下の指導や育成に悩み続けた。中村さんがリーダーとして一番大切にしたのは「チームづくり」。よいチームができれば個々の能力も自然とアップし、チーム力もさらに上がっていくはず。それが会社のため、ひいてはお客さまのためになると考えた。

ただ、一人ひとりの特性を生かしながらチームをまとめるのは、想像以上に大変だったという。まずは各課員に頻繁に話しかけ、それぞれの訪問先にも同行して、全員の人柄や営業スタイルをつかむよう努めた。そうして個性を把握した後は、皆の机を回ってオープンスペースでの“おしゃべり”を実行。われ関せずという態度の課員も、あえて話の輪に引き込むよう心がけた。

「そのうち課員同士の会話が増え、互いが互いを気にするようになりました。自分の担当分野では率先して皆をとりまとめる、とってきた情報を共有するといった習慣もでき、全員が『皆の役に立ちたい』という意識を持つように。本当によく成長してくれた、と大きな喜びを感じました」

この時部下だった課員たちは今、大いに活躍しているという。悩み続けた2年間は、自身のリーダーシップを磨く上でもよいステップになり、浦和支店支店長、そしてプライベート・バンキング第三部長へと道が拓けていった。

両立に奔走した時期を乗り越え、「今は以前より少し余裕ができてきたかな」と笑う中村さん。これからは役員として視野を広げると同時に、若手の育成にも力を注ぎたいと語る。後に続く女性社員たちの道を切り拓くことも大事な務めの一つ。そのためにも、自分の経験を伝える機会を増やしていくつもりだ。

「でも、私の両立経験だと仕事のウエートが高すぎて、あまりいい例とは言えませんね(笑)。若い人は私みたいに必死にならないで、周囲の協力や制度を活用して要領よく両立してほしい。長く働き続けよう、がんばろうと思えるように、自分なりのベストバランスを見つけてほしいです」

そう言った後、「私はずっと早足で、足元ばかり見て進んできたから」と、少し懐かしそうにほほ笑んだ。若手時代の奮闘は、今は働くママとしての大きな経験値に変わった。歩みながら空を見上げる心の余裕もできた。できることを一つひとつ、焦らずにやっていけばいい。そんな思いを胸に、今度は執行役員の責務にも取り組んでいく。

役員の素顔に迫るQ&A

Q 好きな言葉
明日は明日の風が吹く
「失敗しても気持ちを切り替えて、明日はまた新たに踏み出そうという気持ちになれます」

(写真=小林 久井)

Q 趣味
子どもが所属する部活の試合観戦と応援

Q 愛読書
下町ロケット』池井戸 潤

Q Favorite Item
ペン
「仕事の必需品。それぞれ課長、支店長、役員になった時にいただいた記念の品です」

文=辻村 洋子

中村 佳代(なかむら・かよ)
SMBC日興証券 執行役員 プライベート・バンキング第三部長

1991年、和洋女子大学卒業。日興證券(現SMBC日興証券)に入社。約4年勤務したのち紫外線ランプ輸出会社に転職、第一子出産を機に専業主婦となる。2000年、日興證券に復職。営業の第一線で活躍し、大宮支店営業課長、浦和支店支店長、プライベート・バンキング第三部長を経て2019年より現職。1男3女の母。