助成金を出しても政府の懐は痛まない仕組み

経済団体以外にあえて「人手不足業界団体」を入れたところに政府の真意が透けて見える。そして「(人手不足)業界団体等と連携し、短期間で取得でき、安定就労に有効な資格等の習得を支援」という名のプログラムが登場し、「建設」「運輸」「農業」などの業界団体を通じて正社員に転換するスキームが描かれている。

たとえば厚生労働省が委託した建設業の団体が短期の訓練を経て、各企業で半日~3日間程度の職場見学・職場体験後に正社員として就職するという流れになっている。これは前述した助成金支給による正社員化支援策と同じものだ。

つまり政府は助成金を使って氷河期世代を人手不足業種に誘導し、業界の人材不足を補おうとしているようにも見える。しかも助成金の原資は働く人たちが拠出する雇用保険料である。税金ではないので政府の懐は痛まないし、人手不足業界も助成金をもらったうえに人材不足解消にもつながる。

人手不足な職場に氷河期世代が定着するか

もちろん、それで氷河期世代がちゃんと就職し、雇用と処遇が安定するならば結構なことであるが、はたして本当にうまくいくのだろうか。

人手不足が深刻な職場は、きつく、また給料が見合わないことが多く、だからこそ人材が集まらないともいえる。そういうところに正社員になりたいのに不本意ながら非正規雇用で働く人や長期無業者が働きたいと思うだろうか。彼ら・彼女らにとっては正社員にはなりたいが、できればやりたい仕事で正社員になりたいと思っているのではないか。長期無業者の中にはいったん就職したが、職場で理不尽な扱いを受けたことで継続就労を諦めた人もいるだろう。そういう人たちが誰もが敬遠する人手不足業種にあえて就職したいと思うようになるとは考えにくい。