人間の不合理な行動がバブルにつながる

ではここで、これら愚行の繰り返しから学べる教訓を考えてみましょう。ポイントとなるのは、楽観論と悲観論で暴走する「投資家の群集心理」です。

今日主流の経済学に「新古典派」がありますが、彼らが理論の前提とする人間は“ホモ・エコノミクス“、すなわち「自己利益の最大化のため、常に最適行動を選択し、ミスすることなく、どこまでも合理的に行動する人間」です。もしも人間がそんな人ばかりなら、この世にはバブルもバブル崩壊も起こりません。でも実際は違います。実際の人間は不完全きわまりなく、その姿はむしろ「行動経済学」に出てくる人間に近いです。

行動経済学とは、従来の経済学では説明できない「人間の不合理な行動」を観察していく経済学ですが、それによるとバブルの群集心理は、次の言葉で表せます。

ハーディング効果(周囲と同じ行動を取ることで安心感を得ようとする心理)
代表性バイアス(印象的だった出来事に引きずられてしまう思い込み)
自信過剰バイアス(自分の知識・経験・能力がなまじあるせいで、意見に偏りが出ること)
現状維持バイアス(難しい選択をするくらいなら、現状維持を求める心理)
プロスペクト理論(人は利益よりも損失を嫌うという理論。
人は1万円もらう喜びよりも、1万円失う痛みのほうを大きく感じてしまう)
損失回避バイアス(利益よりも損失を嫌う心理から、判断に生じる偏り)
勝者の呪い(厳しい抽選を勝ち抜き得たのが、1株319万円もするNTT株だったなど)
フレーミング効果(表現次第で相手の印象を変えられる効果。「まだ2万円で頑張っている」株価を「もう2万円まで下がった」と報道され、パニック売りに走るなど)

どれも見事に、バブル期の人間の姿ですね。これらを反面教師とするなら、結局めざすべき人間像は「ホモ・エコノミクスに近い投資家」ということになります。つまり、客観的で正確な情報以外に振り回されず、いかに市場が楽観論に支配されているときでも、あらかじめ決めた利益確定ラインで機械的に売れる人間です。難しいですが、行動経済学的な人間ばかりでは、必ずまたバブルと崩壊は繰り返されるのです。

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蔭山 克秀(かげやま・かつひで)
代々木ゼミナール公民科講師

「現代社会」「政治・経済」「倫理」を指導。3科目のすべての授業が「代ゼミサテライン(衛星放送授業)」として全国に配信。日常生活にまで落とし込んだ解説のおもしろさで人気。『経済学の名著50冊が1冊でざっと学べる』(KADOKAWA)など著書多数。