市場が根拠のない自信に支配されたときに生まれ、投資家集団が自信を失ったらはじけるもの、それがバブルです。今回は歴史上、繰り返されてきたバブルについて解説します。なぜこうした愚行は繰り返されるのでしょうか? ここから私たちが学べることは?
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世界最初のバブルは16世紀のオランダ

まず世界最初のバブルとされるのが、16世紀オランダの「チューリップ・バブル」です。チューリップは16世紀の中頃、東ローマ帝国の首都・コンスタンティノープル(現トルコ・イスタンブール)からオランダに入ってきました。オランダの富裕層はたちまち、この珍しくも美しい外来種の花に夢中になり、その球根を取り寄せては、法外な値段で購入しました。その熱は次第に中産階級にまで広がり、みんなが金に糸目をつけずに手に入れようと競うため価格はどんどん吊り上がり、ついには球根1個と土地12エーカー(約4.8ヘクタール)との交換や、球根を玉ネギと間違えて食べた外国の船乗りが逮捕されるといった事態まで発生します。

しかし、あまりの高騰ぶりに、さすがに分別ある人々が「これはおかしい」と売り始めると、価格は下落し始めます。それを見たほかの投資家たちも「これはやばい!」と、どんどん売って、価格はどんどん暴落。こうなると市場はパニックになり、売り注文が殺到して、あっという間にバブルははじけてしまいました。

ダウ平均史上最高値からクラッシュ

1929年の世界恐慌も、その性質は「バブル崩壊」です。第1次世界大戦時、アメリカはヨーロッパから地理的に離れている地の利を生かして、戦時中は軍需物資、戦後は復興物資をヨーロッパに売りまくって荒稼ぎしました。しかし、それも1920年代に入ると売れなくなり、次第に生産過剰気味になります。ところが株価は下がりません。すでに実体経済は冷え込んでいるのに、1次大戦特需から始まった株式投資ブームは沈静化せず、株価だけは上がり続けます。その結果、明らかに経済規模を上回る投機資金が市場を暴走したせいで、1920年代前半から1929年までの間にダウ平均は5倍にもはね上がり、史上最高値を更新したわずか2カ月後に、一気にクラッシュしてしまいました。

日本のバブルの引き金は“NTT株”

日本のバブルは、1980年代半ばから始まった低金利政策が、銀行の「カネ余り」を誘発したところから始まります。ちょうどその頃、電電公社が民営化されてNTTになり、超優良企業で値上がり確実の“NTT株”が発売されました。カネ余りの時期に手頃な投機商品があれば、バブルに火がつきます。日本人は、こぞって銀行から金を借りて株や土地を買いまくり、ここからバブルに突入します。NTT株は、わずか2カ月で「1株119万円→317万円」まで上がり、日経平均株価は1989年末には3万8915円(過去最高)を記録、地価総額は1990年、何と「アメリカ3個分」にあたる2470兆円にまで高騰しました。でもその後、金利の上げすぎや不動産取引への厳しい規制ができたことでバブルははじけ、長い長い暗黒時代へと突入したことは、みなさんもご存じのとおりです。

その他、詳しい説明は省きますが、2001年のアメリカのITバブル崩壊、2008年同じくアメリカのリーマン・ショックも、バブル崩壊です。

人間の不合理な行動がバブルにつながる

ではここで、これら愚行の繰り返しから学べる教訓を考えてみましょう。ポイントとなるのは、楽観論と悲観論で暴走する「投資家の群集心理」です。

今日主流の経済学に「新古典派」がありますが、彼らが理論の前提とする人間は“ホモ・エコノミクス“、すなわち「自己利益の最大化のため、常に最適行動を選択し、ミスすることなく、どこまでも合理的に行動する人間」です。もしも人間がそんな人ばかりなら、この世にはバブルもバブル崩壊も起こりません。でも実際は違います。実際の人間は不完全きわまりなく、その姿はむしろ「行動経済学」に出てくる人間に近いです。

行動経済学とは、従来の経済学では説明できない「人間の不合理な行動」を観察していく経済学ですが、それによるとバブルの群集心理は、次の言葉で表せます。

ハーディング効果(周囲と同じ行動を取ることで安心感を得ようとする心理)
代表性バイアス(印象的だった出来事に引きずられてしまう思い込み)
自信過剰バイアス(自分の知識・経験・能力がなまじあるせいで、意見に偏りが出ること)
現状維持バイアス(難しい選択をするくらいなら、現状維持を求める心理)
プロスペクト理論(人は利益よりも損失を嫌うという理論。
人は1万円もらう喜びよりも、1万円失う痛みのほうを大きく感じてしまう)
損失回避バイアス(利益よりも損失を嫌う心理から、判断に生じる偏り)
勝者の呪い(厳しい抽選を勝ち抜き得たのが、1株319万円もするNTT株だったなど)
フレーミング効果(表現次第で相手の印象を変えられる効果。「まだ2万円で頑張っている」株価を「もう2万円まで下がった」と報道され、パニック売りに走るなど)

どれも見事に、バブル期の人間の姿ですね。これらを反面教師とするなら、結局めざすべき人間像は「ホモ・エコノミクスに近い投資家」ということになります。つまり、客観的で正確な情報以外に振り回されず、いかに市場が楽観論に支配されているときでも、あらかじめ決めた利益確定ラインで機械的に売れる人間です。難しいですが、行動経済学的な人間ばかりでは、必ずまたバブルと崩壊は繰り返されるのです。