今こそ変化すべき「育児は母親の仕事」という風潮
また、環境面だけでなく、育児を応援する“空気”を作ることも重要である。シンガポールでは、ベビーカーを押す人に対して周りの人々が優しく手助けしようとする様子が見られるが、日本では違うという話を聞く。電車やデパートなどでベビーカーがまるで邪魔もののような視線を受けているとすれば、日本の女性はなかなか子を生もうという気になるまい。日本の人々が、「子は宝」と考えるようになるだけでも、少子化対策に一定の効果が出るのではないだろうか。
もちろん、日本の出生率を高めるためには日本人男性も意識を変えなくてはならない。日本ではまだまだ「育児は母親の仕事」という風潮があるというが、欧米や中華系の文化では父親が子育てをするのは当然のことだ。私も娘たちの子どもの学校への送り迎えを自らおこなってきた。
優れた制度が生まれても、日本女性の負担は減らない
もっとも、日本では男性の育児参加を促す制度はすでに導入されていると聞く。父親も希望をすれば一年を超える育休の取得が認められるというから、私も驚いた。ところが、日本人男性の育休の取得率を見てみると非常に低く、2017年度には初めて5%を超えたとのことだが、それでも全体の20分の1にすぎない。
ここからわかることは、日本では優れた制度を用意するだけでは、人々の行動を変えることは難しいということだ。おそらく、日本人の、周囲に配慮する国民性も影響しているのだろう。しかし、このままではいつまで経っても、日本人女性が育児の負担を一人で背負い続けることになりかねない。
仕事と家事や育児をすべて完璧にできる女性など、ほとんどいないのだから、夫婦が協力しあわなくては、決してそれぞれが満足できる家庭生活を営むことはできない。男性が家事や育児に関わらなければ、女性が思い描くライフスタイルを諦めざるを得なくなってしまうだろう。これは女性を出産から遠ざける要因となってしまう。
もし、日本でも父親が家事や育児を当たり前におこなうようになれば、女性は母になっても趣味や仕事に取り組めるようになる。私の妻のペイジも、会員制クラブの会長を務め、娘たちの育児をしながら自著を執筆してきたが、パートナーや外部サービスの力を借りれば、こうしたことも決して不可能ではないのだ。
日本の少子化を本格的に解決するには、「子は宝」という意識を社会に浸透させるとともに、「家のことは女性がやるべき」という古き日本の意識を捨て去る必要がある。日本政府や企業は、そのためにできることを積極的におこなうべきだ。
優秀な女性が“ふさわしい場所”でキャリアを築ける社会へ
ただ、良い変化の兆候も見られる。たとえば、日本の女子サッカーチームが「女子ワールドカップ2011年大会」で初優勝した。これは彼女たちが「日本の女性でもサッカーで世界一になれる」と考え、努力をしてきたからこそ、なし得たことであろう。そう思えるだけの社会的土壌が日本にできたことを示す。
また、最近の日本では女性天皇についての議論が盛んになっているようだが、私はほとんどの日本人が望むのであれば、法律を改正すべきと考えている。もし女性天皇が誕生すれば、女性の地位向上に大いに役立つだろうし、日本でロールモデルになれるような女性の成功者も増えると考えられる。
日本で起きているこれらの変化は、まだ小さな変化なのかもしれないが、前向きな変化であることには違いない。もし優秀な女性がふさわしい場所でキャリアを築くことができないとしたら、これもやはり日本を衰退させる原因になるだろうから。
日本人の女性の意識に前向きな変化がもっと起きれば、彼女たちが日本社会の不合理な現状に対して「NO」を突きつけられるようになるかもしれない。最初は、家事や育児の押し付けに対するNOなのかもしれないが、いずれ自信をつけ強くなった女性たちが、日本の政治や社会構造を抜本的に変える原動力になることを期待したい。