職場で「後知恵バイアス」が起きやすい理由

人間には誰しも「後知恵バイアス」があるものの、特に職場でこういう言葉が出てきやすいのはどうしてなのでしょう。それは何か悪いことが起こった場合、サラリーマンの世界では必ず“犯人探し”をするからです。当然、犯人探しが始まれば誰も自分が犯人にはされたくありません。つまり、誰もが自分の責任逃れをしたいという気持ちがあるため、こういったセリフが次々に飛び出してくるのです。

でも本当は単なる犯人探しをしても意味がありません。なぜなら、「誰が?」という原因を突き止めることが優先されると、「なぜ?」という原因が曖昧になってしまうからです。つまり、失敗の原因が個人にかぶせられてしまい、本当の原因やそれに対する対策を考えることがおろそかになってしまうのです。組織が失敗の本質をなかなか修正できないというのは、このあたりの心理に原因があるのかもしれません。

因果関係を単純化してはいけない

ではどうすれば後知恵バイアスによるいわれのない非難を防ぐことができるのでしょう。自分が部下の場合なら、できる限り上司に報告しながらプロセスを共有することでしょう。要するに上司を巻き込んで言い逃れできないようにすることです。

逆に自分がリーダーの立場なら、部下に対して後知恵バイアスによってそんなセリフを吐かないよう気をつけなければなりません。そうならないようにするためには、できる限り結果と原因を直線で結びつけないようにすることです。どうしても我々は「○○だからこうなった」という具合に因果関係を単純化したがります。ところが実際には、原因は単純なものではなく、様々な要素が複雑に絡む場合も多いのです。だから、いい結果も悪い結果もすべて想定内であることをメンバー全員であらかじめ共有しておき、同時にそうなった場合の対応策を考えておくことが大切です。

上司に言われてムカつくあのひと言を、ついうっかりと自分も後輩や部下に言わないように注意することが必要ですね。

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大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト

1952年大阪府生まれ。オフィス・リベルタス創業者。大手証券会社で個人資産運用業務や企業年金制度のコンサルティングなどに従事。定年まで勤務し、2012年に独立後は、「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるように支援する」という理念のもと、資産運用やライフプランニング、行動経済学に関する講演・研修・執筆活動を行った。日本証券アナリスト協会検定会員、行動経済学会会員。著書に『投資賢者の心理学』(日経ビジネス人文庫)、『定年男子 定年女子』(共著・日経BP)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)、『お金の賢い減らし方』(光文社新書)など多数。2024年1月没。