「やっぱりな」と言いたくなる心理
これは「後知恵バイアス」といって、人間の心理ではしばしば起きることですが、特に仕事の場では非常に起こりやすいのです。この「後知恵バイアス」というのは、「実際に起こったことは起こらなかったことに比べて可能性が高かった!」(だから未然に防げたはずだ)と、後になって感じる心理を言います。でもこれは人間の感じ方による勘違いなのです。
ではなぜそんな風に感じるのかというと、その原因は「あいまいな記憶」と「自分の能力への過信」にあります。人は誰でも物事が起こる前に自分がどう考えていたかを忘れがちです。おまけに先行きの結果が不確実なものに対して、人は誰しも一抹の不安を持っているもので、その不安は心の片隅にはずっと残っています。したがって、起きたことは「やっぱり自分が思っていた通りだ」と感じてしまうのです。
そしてこれは仕事の場だけではなく、家庭でも起こりがちです。子供が何か失敗して部屋を汚したりすると、「ほら、だからママが言った通りでしょ。そんなことするからよ」と、つい口に出しがちです。夫婦の間でもちょっとした失敗が非難の応酬になってしまいがちなのも同じ理由からです。
身近な例で考えてみましょう。サッカー日本代表の監督は外国から有名な人を招く場合が多く、当然、勝つことが期待されています。ところが予想に反して、負けが続くと無能だとマスコミに書き立てられます。挙げ句は「最初からこの監督の起用は疑問に思っていた」と発言する評論家も出てきます。これこそまさに後知恵バイアスの典型的なパターンでしょう。
会社のプロジェクトチームにも同じようなことが言えます。うまくいかなくなると必ずどこからか「やっぱりな。私は最初からだめだと思っていたんだよ」という無責任な声が聞こえてくるのです。
反論できないツラさ
あるいは、こんなケースの場合はどうでしょうか? 例えば何かの仕事をしていて、完了間近になり、依頼主から突然キャンセルの申し出が来たとします。そうすると関係部署や上司からはこんな声が出てきます。「どうして今さら急にキャンセルが来るんだ! 事前に兆候はあったはずだろう!」、「俺はそうなるような気がしていたよ、甘いなお前は」……。
誰でも経験があるでしょうが多くの場合、これらの後講釈の批判は的外れであることが多いものです。そんな理不尽なことが起きる可能性がある取引先であるなら、誰もが事前に十分注意します。恐らく今までの取引実績を見てもそんな様子はなかったために油断していてこういう事態になってしまったはずです。こんな風に後知恵バイアスによって色々文句をつけられるのは気分が悪いものです。ところが、結果が悪かったという負い目を自分でも感じているので正面からは反論しづらいのです。だからこそストレスが溜まるのです。