マミートラックに陥る日本女性が多い理由
それでは、日本の子育て・共働き家庭をとりまく現状はどうなっているのだろうか。子どもの誕生後、妻がメインで育児を担い、仕事をセーブする。ここまでは米国と同様だが、その先の実情は大きく異なっており、厳しい現実が待ち受けている。
出産後の育休あるいは一時的な退社を経て、職場に復帰した後の時短勤務や在宅勤務など、仕事と育児の両立支援に向けた負担軽減制度については、たいていの日本企業が整備している。最近では、配偶者の海外転勤に同行するための休職・復職制度を用意している企業も増えており、一見すると、子育てをしながらも共働きを続けるための環境は恵まれているようにも映る。
ただ、企業側の内実は「時短勤務の社員は使いにくい」「戦線離脱した人間に、重要な仕事は任せられない」。おのずと軽勤務しか与えられず、企業内キャリアアップの道からは遠ざけられ、仕事への意欲が次第にそがれていく「マミートラック」の状況に陥っている女性は相当数に上っているとみられる。
日本の事情にも詳しいAさんは「結婚や出産を理由にして、仕事を辞める女性がいまだに多いなんて、もったいないと思う。私の周りでは、子どもがいる人の方が効率よく、仕事を早く片付けている」とした上で「一度辞めたからと言って、能力が失われるわけではない。なのに、なぜ再就職が難しいのか、実に不思議だ」と疑問を呈す。
商社勤務のパワーカップルが抱いた違和感
「入社した大企業でどんどん出世していくのが、女性のキャリア向上につながると思っていた。今は、世界中どこへ行っても働けるスキルを得ることが将来的なキャリアアップにつながると思っている」
今秋、夫の米国赴任から約半年遅れて、子連れで渡米する日本人女性Cさん(30代半ば)は今、新たな境地を見据えている。会社には、配偶者の海外転勤に伴う同行休職制度があるものの、自身の思い描いたキャリアパスからは離れるため、悩んだあげく帯同を決意。夫は米国転勤が決まった際、妻のキャリアを大切にする一方で、家族一緒の生活を望み「付いてきてほしい。付いてこないのならば転職する」とまで述べ、同居を望んだという。
夫婦それぞれ別の総合商社に勤務しており、学歴、年収も高い典型的な「パワーカップル」。自らも、東南アジアで駐在員を務めた経験がある。夫の会社は、赴任地の現地企業で配偶者が働くことに難色を示しており、米国での就労は断念せざるを得ないかもしれない。そこで、渡米前に自ら起業した。米国での新生活について「元駐在員と駐妻の2つの視点を持つ強みを生かしたい。高いキャリアを持つ駐妻を対象にした市場は成長が見込めるので、何かビジネスを展開できれば」と期待が膨らむばかり。加えて、米国滞在中にMBAを取得する意向だ。
転勤帯同だけで戦力外扱いに
周囲から「ご主人、おいしいごはんが食べられるようになるね」「家事育児に専念できるね」と言われる毎日。もちろん、家事・育児に手を抜くつもりはないが、思いはすでに別のところにある。今回、渡米の決断にあたり「自分では、キャリア志向が薄れた感覚は全くない。しかし、退職し同行すること自体が、社内の人からは『家庭を重視する女性』として見られてしまっている。大企業で階段を上っていくには、フルコミットメントが求められ、ひとたび休職などで外れるだけでも、戦力外扱いされているように感じる」と指摘する。