文具の可能性を見いだし、中国国内の新たな市場を担う
大学で国際貿易学を専攻し、得意の語学を生かして輸出入の仕事を手がけてきた項伊莉(シャン・イーリー)さん。文具の世界に興味を持ったのは、ある貿易展示会で通訳を頼まれたときだった。会場のブースには海外のさまざまな文具が並んでいた。
「その展示会で文具というものをあらためてじっくり見て、“可能性”と“おもしろさ”を感じたのです。同じファイルでも人によって選ぶ形や色柄が違う。商品を見ただけで購入者のストーリーが見えてくるようで」
当時の中国人にとって文具は「使えればいいもの」だった。28歳で現在の会社を立ち上げた伊莉さんは、国内の需要はまだ少ないと考え、機能やデザイン性に対するニーズの高い欧州の文具市場に参入する。これまで培った貿易のノウハウと、品質や使いやすさにこだわった商品が受け入れられ、20以上のブランドを展開。約80カ国にユーザーを持つまでに成長した。
ここ1、2年で中国は劇的に変化している。キャッシュレス化が進み、商品の売り方が変化した。富裕層が増え、お金を出せば何でも買える時代になったともいえる。製造業は発注されたものを生産するだけの「メイド・イン・チャイナ」から、ゼロから企画して商品化する「クリエイテッド・イン・チャイナ」へと変わりつつある。大きな転換期を迎えているその中国国内市場を、伊莉さんは次なる目標に定めた。販売ルートは実店舗を省き、世界最大の中国発ECサイト「淘宝(タオバオ)」に絞った。
「中国には金銭的には恵まれているのに心が満たされていない人が増えていると感じます。そこで企画したのが『新貴族風範(お金や財産ではない豊かさを持っている人)』という文具シリーズ。さまざまな職場やあらゆる立場でノートやファイルを使う中国人をリサーチし、徹底的に使い方をヒアリングして、彼らに寄り添い、ひらめきを与えられるような、心を満たす文具を開発しました」
伊莉さんは稲盛和夫氏の著書をよく読む。「庶民目線や生活者としての経験からの経営の話がわかりやすく、共感できる」から。貿易ビジネスの世界に進みたいとスイスに留学中の娘にもすすめようと思っている。
7:00 起床。その後メールチェック。朝食、身支度。
8:00 自宅で仕事開始。
9:00 会社に行くときはこの時間に。
12:00 アプリでのデリバリーか、メイドが作った料理で昼食。
13:00 仕事。会議か工場へ出向くなど。
17:00 工場から戻って帰宅。夫、子どもと語らう。
19:00 夫かメイドが作った料理で夕食。クライアントとの会食がある場合も夕食。
24:00 お香をたいて就寝。
▼my favorite
●愛読書:稲盛和夫著『六つの精進』
●好きな言葉:「毎天進歩一点点(毎日少しずつ進歩する)」
●美容と健康:ジョギングとヨガ
文具貿易会社経営
1975年、浙江省生まれ。温州経貿大学国際貿易学部を卒業後、貿易会社に入社。2社で経歴を積み、2003年に文具の貿易会社「TOPTEAM」を立ち上げ、現職。