「民族」の魔力で国民を幻惑

第2次世界大戦後、北側では人民委員会がつくられ、ソ連の支援のもと、共産主義による国家建設が着々と進められ、1946年2月には、金日成(キム・イルソン)が委員長に就任し、実権を掌握します。

前述の独立運動家の金九は民族の統一した形での新国家建設を強く主張し、金日成ら共産主義勢力とも、手を携えようとしました。金九は「私の体が二つに引き裂かれようとも、民族が二つに引き裂かれるのを見ることができない」という言葉を残しています。金九は金日成と会い、融和を説得するものの、金日成は共産主義による統一という路線を譲りませんでした。

一方、アメリカから帰国した李承晩(イ・スンマン)は共産主義勢力を排除しようとしたため、金九と激しく対立しました。李承晩はアメリカの支援を受けた筋金入りの反共主義者で、南側の単独独立を断行して、韓国の初代大統領になりました。こうした混乱のなか、金九は1949年、政敵によって暗殺されます。

文大統領は金九を英雄視しています。1919年以降、臨時政府を率い、日本と戦った英雄、そして、戦後は民族の統一のために戦った英雄。文大統領にとって、金九は二重の意味で英雄なのです。敬愛する金九の悲願を達成するため、金九が金日成と手を結ぼうとしたように、文大統領はその孫と手を結ぼうとしています。いや、すでに結んでいます。

韓国人にとって、「民族」という言葉は絶対的なものです。われわれ日本人にはピンときませんが、彼らにとって、その響きの魔力の前には何者も無力です。

文大統領は1919年建国説を唱えることにより、「民族」の魔力を現出させ、国民を幻惑しようとしています。また、不法悪辣な日本と戦う民族の闘士として自らを演出するとともに、日本に魂を売った親日保守派を貶めようとしているのです。

朝鮮半島には全く異なる民族が住んでいた

2018年9月18日~20日、訪朝した文大統領は平壌で「民族」、「同胞」、「一つ」ということを強調し、「私たちの民族は5000年を共に生きた」と演説し、民族が再び統一されるべきだと主張しました。

しかしながら、現在の韓国エリアと北朝鮮エリアには、もともと全く異なる民族が住んでいました。朝鮮半島の北部に住んでいたのが満州人、南部に住んでいたのが韓人であり、一つの民族が「5000年を共に生きた」などという史実はどこにもありません。

ソウルの南側を東西に流れる大河、漢江(ハンガン)があります。大まかに言うと漢江を境にして、北側が満州人のエリア、南側が韓人のエリアでした。韓人は朝鮮半島の南部から中部にいた農耕民族で、半島の中心的な原住民です。韓人という言い方は慣習的なもので、学術上の明確な定義はありませんが、朝鮮半島南部の三韓の地にいた人々を総称するものです。

満州人は朝鮮半島の北部にいた狩猟民族で、中国東北地方の満州を原住地とします。古代において、満州人と韓人は南北で激しく争っていました。満州人のエリアには高句麗、韓人のエリアには新羅、任那、百済が建国されました。

韓人というのは現在の韓国人の元となった民族です。一方、満州人は現在の中国領に属する満州平野を中心に、遼東や朝鮮半島北部に分布していました。17世紀に中国最大の王朝の清を築くのも、この満州人です。満州人は中国から朝鮮半島に到るまで広範に分布しており、韓人よりも人口が多く、強大な勢力を誇っていました。