失敗からの立ち直り方法は「次の課題に取り組む」

また、管理職になってからは、育休が明けて復帰する部下に「あなたはどうしたい?」と聞いて失敗。サイボウズでは働き方を選択できるため、まずは本人の意向を知ろうと投げかけた質問だったが、返ってきたのは意外な反応だった。

その部下は「私は期待されていない」と感じたそうで、質問より先に、中根さんは、自分にどうしてほしいのかを聞きたかったのだという。感じ方は皆違うのだから、その人に合わせた声かけをするべきだったと反省した。

失敗すると大いに落ち込むが、立ち直りは早い。中根さんの立ち直り方法は、次の課題に取り組むこと。今も、役員会での提案が再提出になるのはよくある話だ。仕事は思い通りに運ばなくて当たり前、それでも次はきっと結果を出してみせる──。壁にぶつかっても常に先を見続ける強さが、中根さんの最大の武器なのかもしれない。

働きがいのある環境づくりへ向けて改革続行

「リーダーシップって何だろうと悩んだこともあります。特に事業支援本部長になったときは、前任者のように強力なリーダーシップで引っ張るタイプではない自分に、これでいいのかな? と悩むことがありました。でも、私は前任者と違って協調型。その違いに気づいたとき、私なりのリーダーシップとは皆の意見を良い方向にまとめて前進するサポートができることであり、皆を活かすこと。いわゆるサーバントリーダー型に近いかもしれません。もちろん、私自身が想いのある種をまいて一緒に育てたいと思ってくれる人を集めるということもありますが、社内のいい原動力を見つけて発展させる支援をすることなんだと思えるようになりました」

リーダーとして大きな理想や方向性を立てることはしても、実際の進め方は皆に任せ、自分はフォローやサポートに回る。最も重要な役割は、皆がワクワクしながら働ける環境をつくり上げること。自分らしいリーダー像をつかみ、会社の制度改革にもそれまで以上に力を入れるようになった。

「きれいな水辺でたくさんの蛍が輝けるように、澄んだ海で多様な生物が生き生きと泳げるように、私がその水辺や海をつくれたら」と語る中根さん。これまでも、五感を刺激し、コミュニケーションを誘発するオフィスづくり、副業や在宅勤務を含め多様な働き方が宣言できる「働き方宣言制度」など、新しい働き方を実現させてきた。誰もが輝ける環境づくりを目指して、中根さんの改革は続く。

役員の素顔に迫るQ&A

Q 好きな言葉

「道自開」
「東大寺長老を務められた清水公照さんが、父に贈ってくださった色紙。高校時代に見て心に響き、以来大好きな言葉」

Q 趣味
スポーツ全般、やることみること。
最近は、子供のスポーツ(サッカー、バスケ)を通じて、一緒にスポーツを科学したり、スポーツのチームワークについて考えたりすること。

Q 最近読んでいる本
最強チームをつくる方法』ダニエル・コイル
True North リーダーたちの羅針盤』ビル・ジョージ

Favorite Item
ボールペン、ノート、会社スマートフォン
「いつも持ち歩いているお気に入り。このボールペンは書き心地が好きで、いつも同じものを買っている。会社スマホがあれば何時でもどこでも仕事ができる」

中根 弓佳(なかね・ゆみか)
サイボウズ 執行役員 人事本部長 法務統制本部長
慶応義塾大学法学部卒業。1999年大阪ガス入社、2001年サイボウズに転職。知財法務部門にて著作権訴訟対応、契約、経営、M&A法務を行った後、人事制度策定や採用業務に携わる。2度の産前・産後、育児休暇を経て2014年執行役員事業支援本部長に就任。2019年より現職。

文=辻村洋子 写真=小林久井