仕事を続けていく自信がもてなくなった
この仕事に適正がないかもしれないと悩んでもいた。「もともと、強く主張したり説得したりすることが苦手なタイプなので、なかなか株を買ってもらうことができないことが課題でした」。
同社は3年経てば昇進の有無が見えるのだが、昇進どころか仕事を続けていく自信がまったくもてず、上司に「忙しいのでやめたい」と申し出たこともある。そのときは引き留めてもらえたが、いつかこの会社を辞めることになるんだろうな、と思いながら仕事を続けていた。
そんな不安を抱えつつも、アナリストからさらに上のアソシエイト職へと昇進し、自動車部品セクターを担当していた2008年のこと。
市場の悪化が顕著となり、社内の空気は最悪。井出さんは対象外だったが、冬休みの前に大規模なリストラが行われ、ごっそりと人が辞めさせられた。
突然の内線電話
そして、翌年2月のある朝、知らない内線番号から、調査部長が「会議室に来てほしい」と電話をかけてきた。嫌な予感がした。会議室で告げられたのは、「1時間以内に荷物をまとめて」という一言。困惑の中、引き継ぎをしなくてはと同僚と話していたら、早く出て行ってと追い討ちをかけられた。
確かに、評価は下から数えたほうが早かった。納得できなくはない。それでも、なぜ私だったんだろう――やりきれなさがこみ上げてきた。その一方で、仕事に追い立てられてきた毎日から「これで解放される」と安堵していたのもまた事実だった。
GSのセルサイドアナリストといえば、業界内では頂点に等しい。リストラされたとはいえ、その立場から他社に同職種で転職する気にはならなかった。そんな時、以前担当していた顧客であった外資系の投資顧問会社から「バイサイドアナリスト(資産運用会社に所属する証券アナリスト。株を買う側になる)を探しているので来てほしい」とスカウトされた。アナリストランキングなど、自分の名前が外部には出なくなることに一抹の寂しさは覚えたが、もともと前に出て行くタイプの人間ではない。新天地としてここを選んだ。