就職活動で「女性」であることを痛感
「就活のときに、女性だというだけで、どうしてこんなに理不尽な思いをするんだろうと憤っていました」
のんびりとした校風の女子校で青春時代を過ごし、東京大学に進学した井出さん。男性の多い大学ではあったものの、特に性別によってハンディを感じることもなく学生生活を送っていた。
井出さんが「女性」であることを痛感したのは就職活動を始めてから。時代は就職氷河期の真っ只中だった。国際協力関係の仕事がしたいと考えていた彼女が、ある日系大手金融機関の説明会に赴いたところ、そこで訊かれる質問は「出産したら仕事はどうするの?」といったことばかり。男性には「どんなことがやりたいのか」「大学で何をやってきたか」と質問するというのに、女性には何より先に“結婚出産で辞めないのか?”という確認をしてくるわけだ。
同じ説明会で、ある女性社員は井出さんに「この会社は女性の総合職の枠が1人しかいないの」と告げた。「女性自身が女性の採用数の少なさをあたり前のように言うことの救いようのなさ。なんと理不尽なんだろうと感じました」。
日系企業に嫌気がさしてゴールドマン・サックスへ
そんなもやもやを抱えていた大学3年の3月、米ゴールドマン・サックス(以下、GS)の日本法人が開催した「スプリング・ジョブ」という就活生向けのイベントに参加。そこでは、発表した成果や、どんな仕事をしたいのかしか質問されず、日本企業で感じた理不尽さはみじんも感じなかった。その点に好感を持ち、かつ日系企業に辟易していたことから、英語も大して話せないのに就職を決めてしまったのだ。
とはいえ、GSといえば、外資の中でも「ガツガツ系」で有名な企業だ。友達にも「本当に大丈夫?」と心配され、入社が近づくにつれ不安が高まった。
予感は的中。企業分析をし、投資家に情報を提供するセルサイドアナリスト(証券会社など株を売る側のアナリスト)の部門に配属され、アナリストの補佐をすることになったが、降ってくる仕事を回すので精いっぱいの日々。創意工夫をしながら業務にあたる余裕はなかった。