気軽に参加できる、カフェで行うイス坐禅
最後に向かったのは飲食店で開催される「ZEN Cafe」。臨済宗妙心寺派が首都圏に禅を広げるための拠点として2005年に設立した東京禅センターが、企画・運営しています。今回は中目黒の和創作鉄板ビストロ「眞か―SHINKA―」で15時から開催された回に参加しました。お布施料は1000円。会場は店の二階です。暖色の落ち着いた照明で、壁面には、いくつもの伝統陶器が並べられています。
開始時刻の5~15分前に9名の参加者が集まりました。部屋の長机を囲むように、向き合って座ります。参加者は男女半々で、20~30代が多く、体験した坐禅会の中では、一番カジュアルに参加できる雰囲気でした。
時間になると臨済宗の僧侶・菅井一磨(スガイイツマ)さんから今日の基本説明がありました。「今回はイスに坐って行うことから足が痛くならない気軽な『イス坐禅』を通して、会社や電車、バスなど、場所を選ばずにできる身体の調え方と呼吸法を学んでいただきます。ぜひ今日の学びを持ち帰って、一日一度は静かに坐って身と呼吸と心を調えてください」
説明に従い、坐禅法をみんなで実践しながら覚えます。まずは“調身”。身体の力を抜いて姿勢を正し、頭が天を突くようにイスに腰かけます。両足は地に着けて、手は軽く結んで、へその前当たりに置くだけです。次に“調息”。「一番大切なのは呼吸です。体の中の空気を鼻からゆっくりと吐き出します。鼻からアゴ・胸を通って、へその下あたりが膨らむイメージを持ち、体全体の空気を吐き出し終えたら、自然にまかせてゆっくりと息を吸っていきます。最後が“調心”。身体を調えたことで、呼吸をゆっくり調えると自然と心が落ち着いていることを、実感できます」。足は組まないものの、坐禅法の指導が詳しく受けられます。
臨済宗で行う禅は、曹洞宗や人間禅の「坐禅中に『考えない禅』」に対し、「考える禅」といわれるのが特徴です。「考えないでおこうと思うと人は、次々に思案を巡らせてしまうもの。ですから考えてください。ただし、坐禅中に考えるのはひとつのことにしてください」
鐘がなったらスタート。何かひとつのことを考えよとのことなので、簡単に最近の出来事の振り返りをしました。そういえば、私がはじめて坐禅を体験して、帰り道に頭がスッキリしたため、また行きたいと思った坐禅会は「考える禅」でした。今思うと、あのお寺は臨済宗だったんだなと納得しました。
15分後、鐘が鳴り、坐禅終了です。席まで運ばれてきたあたたかいお茶と栗饅頭をいただきながら、季節にまつわる法話を聞きました。
その後は僧侶に質問タイム。「何故お寺の数珠はあんなに長いのですか?」「数珠は108個、煩悩の数だけついているからです。みなさんがお葬式の時に使っている数珠も数えれば、108個の掛け数になっています」。「毎日15分は坐禅をした方がいいですか?」「集中力が切れた15分よりも、集中して1分坐禅をした方が効果があると思います」。坐禅時間が長い必要はないというのは、臨済宗ならではの指導です。
最後にもう一度3分間の坐禅を行い、全部で1時間ほどで終了。坐禅と言えば、敷居が高いイメージですが、気軽な気持ちで参加でき、法話中も参加者から楽しげな笑い声が漏れていたのが印象的でした。「ZEN Cafe」は「厳しいのは避けたい」「長時間座ると飽きてしまいそう」という、厳格な坐禅会は敬遠の女性におすすめです。
人それぞれに好みはあると思いますが、どの座禅も共通点は、「過去や未来の悩みを手放し、何より大切な今に気づく時間を持てること」だと感じました。私自身、終わりの鐘の音が鳴る頃には、座禅前の何かに悩んでいた自分は消え、調えられた呼吸と共にスッキリとした表情で軽やかに帰路に着くことができました。忙しい日々の中で、心が乱れやすくなっているように感じる方は、ぜひトライして、“自分に合う座禅”を見つけてください。