ペットは今や家族の一員。それだけに、死に直面したときに飼い主が受ける悲しみは深く、“ペットロス”を不安視するケースも少なくありません。重症化を防ぐための生前の関わり方と、ペットロスを乗り越える方法を、大学教授が指南。東京・原宿にできた「ペットロスカフェ」も案内します。

愛するペットの死で“抜け殻”状態

会社員のまゆみさん(39歳・仮名)が、14年間連れ添った愛猫を亡くしたのは、昨年の冬。

腎臓の病気で1年近く闘病し、最後は、まゆみさんの腕の中で眠るように逝った。

「あの子がいなくなって、世の中から色が消えたような感覚におちいりました」

朝起きた瞬間、ふと部屋の中を探してしまう。柔らかな毛の感触と温もりが今も掌に残っている。何をするにも気力がわかず、思い出しては泣いてばかりで、抜け殻のような状態に。「飼い主としてきちんと責任を果たせたのだろうか」。そんな思いに駆られ、自分を責めた。

つらい思いが癒え始めたのは、半年ほどたってから。犬猫の保護施設に足を運ぶようになり、再び猫との暮らしを思い描けるまでに回復した。まゆみさんは今、「あの子にできなかった事を別の子にしてあげたい」と前向きな気持ちで、新しい猫の受け入れ準備を進めている――。

ペットロスを重症化させる2つの感情とは?

「“ペットは家族”という認識が一般的になるに従い、重いペットロスになる人も増えています」。そう話すのは、ヤマザキ動物看護大学で「ペットロス論」の講義を持つ新島典子教授だ。

ヤマザキ動物看護大学動物看護学部動物看護学科教授の、新島典子さん。近年、獣医療の現場でもペットロスを重く受け止めるようになっているため、動物看護師がこの問題に対処できるよう、国内で唯一「ペットロス論」を開講している。海外の大学でも類を見ない珍しい科目だ。

「そもそもペットロスとは、犬や猫をはじめ、大切なペットを失うことで生じる悲しみの感情であり、人間の家族を失ったときに生じる悲嘆感情と違いはありません。ペットロスが重症化すると、強い疲労感や虚脱感を覚えたり、なかには、睡眠障害や摂食障害になるなど、日常に支障をきたす状態になることもあります」

ペットロスの悲しみが大きくなる要因としては、ペットの飼い主特有の“自責の念”と“愛着の強さ”があると話す。

「ペットの場合、治療の選択が飼い主にゆだねられるため、“自分のせいで闘病を長引かせ、苦しめてしまった”などと、後悔するケースも多い。また、動物は言葉を持たないので、飼い主が自分に都合よく解釈をして絆の強さを想像する。その分、愛着が強まりやすいと言えます」

加えて、ペットを失った悲しみが社会から公に認められないというストレスも。

「一部の動物関連企業では、ペットの死亡時に忌引きが申請できますが、大半の職場ではそうしたケースは認められません。周囲の無理解が悲しみを増幅させてしまうのです。また人間同様、介護休暇の導入を望む声も多く、対応が急がれます」