職場の人間関係や恋愛問題などに心が乱される自分を鍛えたいと、座禅会への参加を希望する女性が増えているそうです。ただ、宗派の違いや企画のコンセプトによって、まったく形式が異なるのが坐禅会。今回は、都内で形式がまったく異なる3つの座禅体験に参加し、自分に合う「座禅会選び」について探りました。
前編では東京・表参道の大本山永平寺別院長谷寺が開催する月曜参禅会を体験! 後編ではまず、座禅専門道場である「擇木道場」の坐禅会をレポートします。

人間禅の専門道場で体験!「女性だけの座禅会」

日暮里駅から徒歩5分のところに開かれた、既存の宗派に属さない「人間禅」の専門道場・擇木道場。人間禅は、僧侶にしか許されていなかった禅門の修行を、職業を持つ社会人こそが積むべきだとして、一般社会人を対象にして創設された禅会です。1949年3月に耕雲庵立田英山(こううんあん たつたえいざん)老師によって開かれ、千葉県市川市に本拠地が置かれています。

その人間禅の東京支部が、擇木道場です。初心者が参加できる座禅会は東京でも各所で行われていますが、擇木道場では毎週金曜日、21時開始の「東京で一番遅い座禅会」が行われるため、働く人も通いやすいと評判です。ビジネスや社会課題と絡めた禅講習なども、積極的に行っていますが、今回は、土曜日朝9時半から開かれる、擇木道場・女性部主催の「女性の美は座禅から 女性だけの座禅会」(男性も参加可能)に参加しました。

開催時刻が早朝でなく、身支度を整える余裕があるのは嬉しい点です。初心者は、事前にHPから予約をいれておくのがおすすめ。そうすれば、当日道場に着いた際に個別で受付してもらえます。そのときに1000円(初回のみ、以後500円)のお布施を渡します。

受付後は、まず更衣室に案内されます。貴重品以外の荷物を置いて、アクセサリー等の装飾品は外します。靴下は履いたままでよく、防寒具の持ち込みも自由です。2回目からは準備が整い次第、各自で座禅会場に向かい、座禅を開始すれば良いそうですが、今回、私ははじめてなので、30分の初心者講習を受けました。

はじめに、慧日庵笠倉玉溪老禅子の指導に沿って、3枚重ねにした座布団の上に座り、座禅の型を覚えます。人間禅の場合、師家も在家(出家していない修行者)であるのが特徴です。

慧日庵笠倉玉溪老禅子

「片足の足先を反対側の膝の方にのせて、使わない足はお尻の方にひきよせる。手は右手の上に左手を乗せ、親指を優しく合わせる。身体をひとまとまりにするイメージです。自分が風船になったイメージで、た~っぷり息を吐いてください。肺から空気がなくなったら自然と上手に吸えますよ」

型がそれなりに決まってくると、座禅の心得について、お話が始まりました。

「人は過ぎたことや先のことを考え、思い悩みがちです。そんな思念を手放し、今をつかみ取るために、今目の前の呼吸に集中していくのが、座禅です。座禅中は、何か考えたりせず、私が今、呼吸をしているということに集中してください。そうすれば、その他の心を乱す要因は『ただそこにあるだけ』ということに気づき、気にならなくなります。環境は遮断するのではなく、ただあると受け止めるために、座禅中は目を閉じ切らず、半眼にしてくださいね」

「心がブレるのは、外の出来事が主体で、自分の心が受身になっているから……座禅を通して、全ては自分が選択していることだと気づいてください」

たっぷりレクチャーを受けて座禅道場に移動しました。この日の参加者は30~50代くらいの女性が6名。

3回の鐘の音が鳴り響き、座禅の開始です。呼吸に集中していると、半眼で見える世界のことがあまり気にならなくなってきました。警策を持ったすり足の女性が目の前を行き来した時も、特に緊張せず、呼吸が心地良くなってきたことで自然と口角が上がります。

5分間の休憩を挟んで約20分の座禅を2回行いましたが、足が痛くなってきたら、組み替えていいということでしたので、途中組み替えながら、気が付けば終了。

座禅会のあとは、参加者全員で円になりお抹茶をいただきます。「何故座禅をはじめたのか?」「最近ハマっていることは?」「なにか悩みがあれば……」などなど話が弾み、まさに女子会です。

「1日20分の座禅で大きく息を吐き呼吸することで、普段はあまり機能していない横隔膜が約4センチも動くと言われています。結果、全身の血流の動きが活発化されるため、座禅には若々しさを保つ効果があるそうですよ」などの豆知識も教えてもらい昼前に解散。

「人間禅」の座禅会は、「本格的な指導を受けたいが、和やかな雰囲気が希望」な方におすすめなのはもちろん、「すべては自分次第だ!」と、立ち止まる背中を押してくれるので、日々、当事者意識を問われる働く女性に特におすすめです。

気軽に参加できる、カフェで行うイス坐禅

最後に向かったのは飲食店で開催される「ZEN Cafe」。臨済宗妙心寺派が首都圏に禅を広げるための拠点として2005年に設立した東京禅センターが、企画・運営しています。今回は中目黒の和創作鉄板ビストロ「眞か―SHINKA―」で15時から開催された回に参加しました。お布施料は1000円。会場は店の二階です。暖色の落ち着いた照明で、壁面には、いくつもの伝統陶器が並べられています。

開始時刻の5~15分前に9名の参加者が集まりました。部屋の長机を囲むように、向き合って座ります。参加者は男女半々で、20~30代が多く、体験した坐禅会の中では、一番カジュアルに参加できる雰囲気でした。

時間になると臨済宗の僧侶・菅井一磨(スガイイツマ)さんから今日の基本説明がありました。「今回はイスに坐って行うことから足が痛くならない気軽な『イス坐禅』を通して、会社や電車、バスなど、場所を選ばずにできる身体の調え方と呼吸法を学んでいただきます。ぜひ今日の学びを持ち帰って、一日一度は静かに坐って身と呼吸と心を調えてください」

説明に従い、坐禅法をみんなで実践しながら覚えます。まずは“調身”。身体の力を抜いて姿勢を正し、頭が天を突くようにイスに腰かけます。両足は地に着けて、手は軽く結んで、へその前当たりに置くだけです。次に“調息”。「一番大切なのは呼吸です。体の中の空気を鼻からゆっくりと吐き出します。鼻からアゴ・胸を通って、へその下あたりが膨らむイメージを持ち、体全体の空気を吐き出し終えたら、自然にまかせてゆっくりと息を吸っていきます。最後が“調心”。身体を調えたことで、呼吸をゆっくり調えると自然と心が落ち着いていることを、実感できます」。足は組まないものの、坐禅法の指導が詳しく受けられます。

臨済宗で行う禅は、曹洞宗や人間禅の「坐禅中に『考えない禅』」に対し、「考える禅」といわれるのが特徴です。「考えないでおこうと思うと人は、次々に思案を巡らせてしまうもの。ですから考えてください。ただし、坐禅中に考えるのはひとつのことにしてください」

鐘がなったらスタート。何かひとつのことを考えよとのことなので、簡単に最近の出来事の振り返りをしました。そういえば、私がはじめて坐禅を体験して、帰り道に頭がスッキリしたため、また行きたいと思った坐禅会は「考える禅」でした。今思うと、あのお寺は臨済宗だったんだなと納得しました。

15分後、鐘が鳴り、坐禅終了です。席まで運ばれてきたあたたかいお茶と栗饅頭をいただきながら、季節にまつわる法話を聞きました。

その後は僧侶に質問タイム。「何故お寺の数珠はあんなに長いのですか?」「数珠は108個、煩悩の数だけついているからです。みなさんがお葬式の時に使っている数珠も数えれば、108個の掛け数になっています」。「毎日15分は坐禅をした方がいいですか?」「集中力が切れた15分よりも、集中して1分坐禅をした方が効果があると思います」。坐禅時間が長い必要はないというのは、臨済宗ならではの指導です。

最後にもう一度3分間の坐禅を行い、全部で1時間ほどで終了。坐禅と言えば、敷居が高いイメージですが、気軽な気持ちで参加でき、法話中も参加者から楽しげな笑い声が漏れていたのが印象的でした。「ZEN Cafe」は「厳しいのは避けたい」「長時間座ると飽きてしまいそう」という、厳格な坐禅会は敬遠の女性におすすめです。

人それぞれに好みはあると思いますが、どの座禅も共通点は、「過去や未来の悩みを手放し、何より大切な今に気づく時間を持てること」だと感じました。私自身、終わりの鐘の音が鳴る頃には、座禅前の何かに悩んでいた自分は消え、調えられた呼吸と共にスッキリとした表情で軽やかに帰路に着くことができました。忙しい日々の中で、心が乱れやすくなっているように感じる方は、ぜひトライして、“自分に合う座禅”を見つけてください。