人生最大の試練が訪れたときは年間5冊も書いた

そんな横尾さんにとって最大の試練が待ち受けていたのは、アビバで大規模なリストラに携わったときのこと。ベルリッツの社長が同じベネッセグループ傘下に入ったアビバの再生をすることになり、横尾さんに声がかかった。全国360店舗あるパソコンスクールを100店舗まで削減することを命じられ、その中でどうやって従業員を守っていくか、お客さまのために何ができるのかと、最善の策を迫られる。

「そこで全員が、会社は誰のためにあるのかという原点に立ち返ることになった。毎日、闘っていましたね」

イライラノートの一部。ページを縦半分に割り、左にイライラを、右に振り返りを書いていく。

現場では従業員とお客さまを守りたいといい、親会社側はとにかく数字を求めてくるなかで、せめぎ合いが続く。店舗開発に携わってきた横尾さんはいかに効率よく店舗運営を維持していくかが使命だけに、一店舗の坪数を縮小することを考える。それによってできるだけ店舗を残し、従業員も守れないかと新たなプランを出した。最終的には1000人ほどのリストラをせずに済んだが、その渦中では現場とのやりとりにも苦戦したという。

「イライラノートの量もすごく多かったですね。1年間で4、5冊は書きました。誰が○○と言ったとか、あの人はここがわかっていないとか、自分は何のためにこの仕事をやっているんだろうかと、胸にたまるイライラを全部書いていました。すると、皆が危機感を持っていて、自分のために仕事をしている人は誰もいないことがわかってくる。状況を克明に書くことで反省すべき点も見えてきたんです」

部下に対するイライラがまったく無くなった

自分も気持ちが焦ると、部下への口調がきつくなる。目的をちゃんと説明せず、「何でできないの!」と詰問してしまうこともよくあった。会社が危機的な状況にあったため、それでも部下は黙ってついてきてくれたが、中には悩んで直属の上司である横尾さんを飛ばして社長に相談する部下もいた。

そんなとき社長に教えられたのは、「人は皆違うのだから、自分の常識で判断しない」ということ。部下を育て、いかにチームの成果を最大化するかという基本をあらためて学んだと振り返る。

「やっぱりイライラの要因は不安なんです。結局、不安や焦りを抱えていると、イライラになって出てくる。その不安をどう自信に変えていくかという過程も、イライラノートを見ているとわかります。すごく不安だったことを自分なりに分析し、解決していくと、仕事をしていく上での軸ができていくんです」

部下との関わり方も変わったという。最初にちゃんと目的を伝えたうえで、進捗状況も細かく確認することを欠かさない。出来ないことや抱え込んでいる業務があれば、「全部書いてごらん」と指示し、足りない部分を考えていく。一緒にやっていくなかで理解も深まり、部下に対するイライラがまったく無くなったという横尾さん。今では<イライラノート>に部下の名前が登場することはなくなった。