温泉やダイビングで疲れをリフレッシュ

前部署の業務では英語がそれほど必要ではなかったが、現在はロシュ社との会議があったり、海外の学会に参加したりするためにも必須となった。会社が福利厚生で半分費用を持ってくれるので、英語のグループレッスンにも参加している。「普通の英会話なのですが、やるとやらないのとでは、全然違いますよね」と山崎さん。

そんな多忙な彼女のプライベートは?

「新製品発売前などは、かなり忙しいし残業もします。そういうときもメリハリをつけて、仕事を切り上げ友人とお酒を飲みに行ったりも。本社がある日本橋界隈は素敵なお店が多いので、ずいぶん開拓しました。それにきっちり休みも取りますよ。温泉やダイビングが好きなので、旅行で日頃の疲れをリフレッシュして、また仕事に専念できるように工夫しています」

“まだまだ修行中”といった感じだが、MR時代の先輩社員は「明るく、前向きで粘り強いタイプ」と山崎さんを評価する。伸び代大のホープに期待したい。

研究者としては道の途中で、第一子妊娠

中外製薬の製薬会社としての強みは「技術力」にある。「薬」は大きく分けて、化学合成により製造される低分子薬、バイオテクノロジーを駆使した高分子薬、そして中外製薬が“新たな創薬の柱”としてオリジナル技術開発中の「中分子薬」がある。

その研究者の一人が、小嶋美樹さん。入社11年目の38歳で、現在第二子出産後の育休を取得中。彼女は大学院でタンパク質工学の博士課程を修了して入社、中分子技術の立ち上げに携わる。簡単に説明すると、中分子薬のおおもととなるものを、偶然ではなく、いかに効率よく見つけるかいう技術だ。長い地道な研究の末、“薬になるかもしれない”という製品化に向けたチームのリーダーになった矢先の第一子妊娠がわかった。

「妊娠したのが30代半ば。ここで産んでおかないと、との気持ちがある半面、研究者としてまだまだこれからだったので、気持ちはやや複雑でした。けれど同じチームに子育ての先輩がいて悩みを共有できたし、上司と相談して違うリーダーに業務を引き継いでもらいました」

出産した長男が保育園に入れない、いわゆる“待機児童”になってしまったので、1年半育休を取ることになる。小嶋さんの妹がパートタイムの薬剤師で、子育ての先輩ということもあり、育児をずいぶん助けてもらった。夫も“イクメン”で、家事と育児を協力してくれる。ママ友もできた。住んでいる地域のサポートで、地元のおじいちゃんやおばあちゃんが子供の面倒を見てくれたり、赤ちゃんのためのコンサートなどにも参加した。

子どもとの陽だまりのような生活の誘惑

働いている頃は、チーム内で喧々囂々の意見を飛ばし合い、ピリピリとしたムードになることもあったし、深夜まで研究に没頭することもザラ。なんというギャップ! 子供との生活はあったかくてのんびりとして、平和だった……。

「このまま、息子と一緒に陽だまりのような生活を送りたい、と思ったこともあります。でも、それは子供に依存しそうで怖かったのです。保育園に預けると、寂しい思いをさせるかもしれないけれど、親が頑張っている姿を見せたかった」と小嶋さんは振り返る。

その後時短勤務で職場復帰。しかし自分がいなくても仕事は回っていくのだと、少し疎外感に陥ったそうだ。しかし組織とは本来そういうもの。誰かがいなくなれば他の誰かがその役割を担い、業務が継続される。そうでなくては組織として成立しない。たとえスペシャリストの研究職であっても、だ。

「以前は、この機械はこの人じゃないと使えない、みたいな職人気質な面がありました。でも、技術は日進月歩だし、誰もが使えるような仕組じゃないと効率が悪いのです。技術を早く特許化して、がんなどの病気に合わせて薬の元をデザインしていくスピード感が必要。だから私は、働き方をシフトチェンジしないといけないなと」