仕事に追われる毎日で、何かを置き去りにしている

アートシーンでそれぞれに奮闘する彼女たちは、職務に邁進する一方で、30代、40代の女性としての人生を生きており、生活や家族に関する問題と対峙してもいる。ここに、本作の大きな共感ポイントがあるはずだ。

アートに関わる仕事は、たいていの読書諸氏にとって縁遠いものだろうが、仕事の激流に流されるうちに、何かを置き去りにしてしまったような感覚は、誰しも共通のものだろう。もしかするとそれは、深い悔恨を思い起こさせるものであったり、痛いところを突かれる気分に近いものかもしれない。

そんな、心の奥深くに眠っていた記憶や情感を呼び起こすきっかけとして、また、人生の岐路にある主題にシンクロさせるものとして、本作では6つのアートが巧みに配されている。

タイトルにある常設展とは、いわば企画展の対義語であり、行けばいつもそこにある展示のこと。趣向を凝らした切り口が用意され、大々的に宣伝される企画展と比べれば、地味な印象を持つ向きも少なくないだろう。しかし言葉を変えれば、いつでも観られるからこその安心感が常設展にはある。

その点を踏まえてページを繰れば、ここに所収された作品の多くが、遠く離れて暮らす家族の存在にふれていることは意味深い。いつでも会える親しい間柄だからと安心していては、流れ続ける時間の中で、いつか取り返しのつかない事態を迎えることもある。それは家族、故郷、健康、すべてにおいて言えることだ。ここに登場する6人の場合、そんな人生の岐路に、1枚のアートがあったわけだ。