2人とも、オーディションで役を獲得

――今回、ディズニーの世界各国の吹替版の声優監修の総指揮を執るリック・デンプシー氏が収録に立ち会い、彼から直接、演出指導を受けたそうですが、どんなふうにコミュニケーションを取りましたか?

【平原】私はオーディションでメリー・ポピンズ役に決まったんですが、顔の骨格も判断材料だったそうなんです。骨格が声を左右するということで、顎を見られていたんだなと思うとちょっと面白かったですね(笑)。リックさんは大物プロデューサーですが、すごく気さくな方で、「自分じゃない人の声に合わせて歌うのは、とても大変かもしれないけれど、君なりのメリー・ポピンズでいいんだよ」とおっしゃってくださいました。私がミュージカルの舞台でポピンズ役をやっていたことも知っていらしたので、「これがメリー・ポピンズらしいというアイデアがあったら、そのままやっていいからね」と言ってくださいました。

【谷原】僕もオーディションを受けました。リックさんは「この映画は家族愛に満ちあふれているから、大好きなんだよ」と、映画への思いをたくさん語ってくださったのが印象的でしたね。僕の場合は、細かい演出は日本版の演出監督からしていただいたので、リックさんが演出監督の立場を立ててくださったのだと思いました。

【平原】エミリーさんの歌を日本語に吹き替えていく時、エミリーさんはそんな歌い方をしていないのに「ここはもっとコブシを入れてくれ」と言われたりしました。「これは日本版だから、日本独自のメリー・ポピンズでいいんだ。エミリーとは違う歌い方をしてみよう」という指示が印象的で、リックさんの熱意を感じましたね。

相手が大物でも、初対面でも臆さず提案

――今回のお二人のように、初めて会う外国の人と円滑に仕事をするためには、どのようにしたらいいでしょうか?

【谷原】やはりまず、相手との壁を作らないように、気持ちをオープンにして接することじゃないでしょうか。

【平原】私も言葉の違いは関係ないと思いました。英語を話せても話せなくても、自分が相手に何を伝えたいかが大事だと思います。「私は英語を話せないから、外国の人と会話できない」と頑なになるのではなく、「じゃあ、もしも英語ができるなら、自分は何を話すだろうか」と考えてみて、「特に今、話したいことはないな」と思うのであれば、無理に会話する必要はないんです。やはり、自分の中にハングリー精神というか、「こういうことを伝えたい」というものがあるかないかで変わってくると思います。

【谷原】そうですね。あくまで人間対人間のコミュニケーションですから。

【平原】日本語でも英語でも言語は大切なので、誇りを持って歌えば、英語圏の人も必ず応えてくれます。実は「幸せのありか」というエンドソングではノイズ(演奏の雑音)を見つけて、取り除けないでしょうかとリックさんにメールしたんです。すると、すぐに動いてくださいました。とても忙しい方なのに、絶対に邪険に扱わない。私のことをちゃんとアーティストとして見てくださっているのが伝わってきました。そんなふうに初めて一緒に仕事をする相手でも臆せず、伝えたいことを言うことが大切だと思います。