28歳で主任に昇進。現場で声を張りあげる
そのチャンスが訪れたのは、入社7年目。28歳のときだ。配属先は、都内有数のターミナル駅・池袋駅のリニューアル工事などを手がける現場。修繕や保守も担う部署だったため、雨漏りなどの突発的な事案にも対応しなければならなかった。しかもこのときに職位が上がり、油井さんは主任として着任することに。
「後輩を指導しながら、複雑な大型の工事を取りまとめていくのは大変でした。主任になるとヘルメットのラインが2本になるので、工事会社の人たちからも、『これ、どうしますか』『指示をお願いします』と次々と声をかけられてしまう。本で勉強しても、工事の現場を見たことがないとわからないことばかり。逆に質問してしまうこともありました(笑)」
上司が不在のとき、「天井材がはがれ落ちそうです」と報告されたときは、身が縮む思いだった。携帯電話で上司の指示を仰ぎながら対策を立て、その場にいるメンバーで協力してなんとか乗り切った。だが、実は子どものころから大勢の人を仕切ったり、人前で話すのは苦手だという。
「工事の内容や工程を説明するときも、男性ばかりが40~50人集まった場所で声をはりあげるのは、なかなか慣れませんでした。工事の調整などで無理をお願いすることもあったので、言い方に気をつけて、常に緊張していましたね」
2度目の転機は、所沢駅(埼玉県)の駅ビル開発を行うグループ会社への出向だ。基本設計の着手から開業までを一通り担当した。
「開業日が決まっているので、絶対に遅れてはいけないというプレッシャーが常にありました。商業開発では、テナント構成や賃料の設定、プロジェクトの収支計算をしていたので、毎日が数字とのにらめっこ。工事の部署では『安全・安心が第一』だったので、価値観がガラリと変わりました」
「トイレのことなら油井に聞け!」
設計会社や工事会社との打ち合わせを綿密に行い、新しい駅ビルのデザインを形にしていくのも重要な仕事だった。意見が折り合わず、苦労したこともあったが、女性らしい視点が活きたこともある。その1つが、トイレの設計だ。
「トイレのことは油井に聞け、と言われるほど、あれこれ提案しました(笑)。たとえば、個室内の荷物用フック。使いやすい位置や形を調べるために、いろんなトイレを見歩いて、メジャーで測ってちょうどいい高さを考えて。バッグを置く台も、高さ、幅、奥行きがどれくらいあればいいのか、みんなで現場で確認しながら決めていきました」