会話の導入から自分のテンポを知らせる
ふだんの会話では、どうでしょうか。テンポが変わりやすいふだんの会話では、相手のテンポに合わせすぎないことが大切です。そのためには「私はこういうテンポの人です」と、最初からわかりやすく示しましょう。「今日は暑いですね」「この店は混んでいますね」といった導入部分から自分のテンポで話し始めることです。早口なら早口、ゆっくりならゆっくりと、最初からしっかりと自分のテンポを出していきます。いきなり、その曲のサビを聴かせるイメージですね。
最初からテンポを伝えて自分をわかりやすく示せば、相手は「話しやすい人」という印象を抱きます。話しやすいから、つい本音を話してしまう、悩みごとを打ち明けてしまう、そこまで話すつもりはなかったのに話してしまった、というような深い人間関係を築くことができます。単なる聞き上手ではない、聞き方の上級スキルを身につけた人が、テンポを巧みに操れる人なのです。
自分のテーマ曲をつくろう
テレビやラジオの番組を思い出してください。番組の最初にテーマ曲が流れますよね。テーマ曲というのは、番組のイメージに合わせた音楽ですから、ニュース番組は宇宙的な無機質な曲、情報バラエティー番組は楽しいアップテンポな曲、重厚な番組ならクラシックが流れ、私たちを番組の世界観に誘います。
ですから私たちも、ビジネス場面の会話であれ、ふだんの会話であれ、「今日は自分のテンポで話したい」というときは、そのイメージに合った音楽を聴いてから臨むのです。じっくりと落ち着いて話したいときは、ゆったりとしたスローな曲、痛快なコミュニケーションを望むなら、心が弾むような軽やかな曲を選びましょう。
クライアントとの商談などで、社外で会う場合は注意が必要です。落ち着いた雰囲気で話をしようと思っていても、選んだ店でかかっている曲が元気な曲なら、そちらに引っ張られてしまいます。どんな音楽がかかっているか、商談場所の下見をしておくとよいでしょう。
野球選手が打席に入るときは、その選手に合わせた登場曲が流れます。ランニングやマラソンをするという方の中には、走るテンポに合わせて、マイテーマソングを聴きながら走る方も多いでしょう。「私プレゼン」でなりうる最高の自分を伝えようと頑張っているあなたには、ぜひ自分のテーマ曲をつくっていただきたいです。いろいろな状況を想定して、マイテーマソングリストをつくれば、自分のテンポで話せ、自分の世界に相手を引きこむことができます。そうすれば、コミュニケーションもあなたの望む方向にもっていくことができるのです。
スピーチコンサルタント
長崎大学准教授。NHKキャスター歴17年。心理学の見地から「他者からの評価を高めるスピーチ」を研究し博士号取得。政治家、経営者やビジネスパーソンに信頼を勝ち取るスピーチやコミュニケーションを伝授。著書に『最高の話し方』(KADOKAWA)など。
構成=池田純子 イラスト=アヤコオチ 写真=iStock.com