人の視線を楽しんで有効に使う方法

間(ま)をとることの大切さは、たいていのビジネスパーソンが知っているものの、なかなか実行できないスキルです。なぜ、それほど難しいのでしょうか。それは「3分の1と3倍の法則」があるからです。

これは相手には3分の1程度にしか感じないものが、話している本人は3倍にも感じるという特徴を表したものです。たとえば3秒の間が、本人には10秒ぐらいの長い沈黙に感じるのに、相手には1秒ぐらい、息継ぎ程度にしか感じないということです。

写真=iStock.com/Yagi-Studio

間をとることは黙ることですから、こわく感じる方もいるでしょう。大勢を前にして、一瞬黙ると「どうしたのかな」「緊張しているのだろうか」と視線が一気に自分に集まります。一極集中で見られるのは、心理的圧迫を感じてしまいますよね。

しかし、このとき間合いをうまくとることができれば、逆に人の視線や注目を楽しんで有効に使うことができます。1度、間をうまくとれた成功体験をしてから癖になったという、経営者のKさんのエピソードをご紹介しましょう。

注目させるために、あえて黙る

その日はKさんの知人の結婚式。自分の会社の社員ではないので、祝辞を言う必要もなく、くつろいで楽しんでいたところに突然、司会の方から「一言お願いします」と言われました。前に出て挨拶しようとするも、会場はすでに宴会状態。おしゃべりしながら食事をしている人がいたり、挨拶回りをするために立ち歩いている人がいたりと、ガヤガヤした雰囲気。とても話を聞いてもらえる状態ではありません。

そこでKさんは「新郎の知人のKさんから一言お祝いの言葉を」と紹介されたあと、ずっとニコニコしながら立っていました。話を聞こうと最初からKさんに注目していた新郎新婦やその親族が心配そうな視線を送ってきます。それでもKさんは黙ったまま、ニコニコとマイクの前に立ち続けました。やがて騒いでいた人たちも空気を察し、会場内はだんだんと静かになっていきました。そしてみんなの視線がKさんに注がれ、シーンと静まり返ったその瞬間、Kさんは話し始めました。

「今、ここに立ち、お集まりのみなさんが楽しそうにお話しする様子を見ておりました。新郎新婦のお二人がどんなに祝福されているか、よくわかりました。○○さん、△△さん、おめでとうございます!」

こうしてうまく間をとったことで、結果、どの来賓祝辞よりも出席者の記憶に残るスピーチとなったそうです。このように「注目させるために、あえて黙る」ときには、表情が大事です。たとえ内心ドキドキしながら立っていたとしても、かたまっていたり、泣きそうだったりすると、緊張してフリーズしたときの間になってしまいます。Kさんのように余裕の笑みを浮かべるのが正解です。