出産したころに読み「あるべき姿」から解放された

アメリカの文筆家、アン・モロウ・リンドバーグの『海からの贈物』は、ずっとそばに置いておきたいと思う一冊です。

(左)『海からの贈物』アン・モロウ・リンドバーグ(新潮文庫/430円)、(右)『21世紀の歴史』ジャック・アタリ(作品社/2400円)

文筆家でありながら飛行家であり、6児の母でもあったアンは、時折、育児や家事から離れて離島へ行き、たったひとりで何日かを過ごします。海を眺めながら、ひとり思索にふけるなかで書き上げられたこの作品は、女性の生き方や幸せについて深く考えさせられる内容です。

この本に出合ったのは、ちょうど出産したころでした。周りの女性の多くが母親になっていくなかで、いざ自分が母となるという現実を、私自身はそのとき受け止めることが難しかったんです。すでに第1子のような存在であるHASUNAという会社があり、その会社を抱えながらわが子も抱えて、「一体、私というものはどこにあるんだろう? 本当の私って何なんだろう?」と悶々と過ごしていました。

良き経営者、良き母親としての「あるべき姿」にがんじがらめになってしまい、とても居心地悪く感じていたのです。

ところがこの本を読み進めるうちに、何十年も前に生まれた人も同じようなことに悩み、その課題と対峙しながら過ごしていたことを知りました。勇気をもらい、美しい自然描写やひとりの女性の生き方、価値観を知ることで、居心地の悪さから少しずつ解き放たれていくような感覚がありました。アンは仕事をしながら子育てや家事もして、でも、そのすべてから離れて自分の時間を持とうとする。

それまで自分の時間を持つことに罪悪感を抱いていた私は、その生き方に励まされ、それでいいんだと思えました。いまでも時々読み返しますし、いずれ英語版でも読んでみたいと思っています。