20代前半にイギリスでの大学生活を終え、ベトナムで半年ほど過ごして帰国。すぐ投資ファンドに就職したのですが、ほぼ365日働いていました。当時はまだ“ブラック企業”という言葉はなかったのですが、そんな働き方を2年ほど続けていたら、体に不調も出てきて……。
時を同じくしてリーマンショックが起こり、それを機に、この先自分の進むべき道について考えました。その選択肢のなかに起業もあるなと思っていたタイミングで、人から贈られた本が『21世紀の歴史』でした。
2008年に出版された『21世紀の歴史』は、欧州復興開発銀行初代総裁であり、“ヨーロッパ最高の知性”とも称されるジャック・アタリによる、来る21世紀を予測した一冊です。発展途上国支援や欧州の金融業界で活躍したアタリ氏の、豊富な知見と鋭い洞察力によって描かれたもの。
前半は人間がどのように文明を築き、それがどう発展し、どう衰退していくのかが分析されています。後半では、歴史上の大きな方向性などを原理原則として、21世紀の市場民主主義以降の状態を「三つの波」(「第一の波」=「超帝国」の時代、「第二の波」=「超紛争」の時代、「第三の波」=「超民主主義」の時代)という言葉で説明しています。
現時点では未来はどうなるか、わかりません。その不確実性のなかで、自分はどのように生きていくのが理想なのか定まると同時に、私は超民主主義のなかで社会に貢献できるようなビジネスがしたいと、目指すべき立ち位置が明確になりました。
今後、どのような人々が活躍するようになるのか、という記述もありました。簡単にいうと、これから権力を持つ人はノマドになっていくだろうと書かれています。おそらくその意味は、働く場所を選ばないことはもちろん、世界中に複数の拠点を持ち、そこを行き来しながら生活するスタイル、さらには拠点も持たず、さまざまな場所を点々とする超ノマドも出現するだろうと。
一方で、人の心の内側を掘り下げていくインナーノマド(内なる放浪者)も注目されてくると書かれています。つまりソフト面では、今後、音楽やアートなど、内なる声を聴くことにまつわる職業が増えてくると予測できます。そんなところにも共感を覚えます。
出産したころに読み「あるべき姿」から解放された
アメリカの文筆家、アン・モロウ・リンドバーグの『海からの贈物』は、ずっとそばに置いておきたいと思う一冊です。
文筆家でありながら飛行家であり、6児の母でもあったアンは、時折、育児や家事から離れて離島へ行き、たったひとりで何日かを過ごします。海を眺めながら、ひとり思索にふけるなかで書き上げられたこの作品は、女性の生き方や幸せについて深く考えさせられる内容です。
この本に出合ったのは、ちょうど出産したころでした。周りの女性の多くが母親になっていくなかで、いざ自分が母となるという現実を、私自身はそのとき受け止めることが難しかったんです。すでに第1子のような存在であるHASUNAという会社があり、その会社を抱えながらわが子も抱えて、「一体、私というものはどこにあるんだろう? 本当の私って何なんだろう?」と悶々と過ごしていました。
良き経営者、良き母親としての「あるべき姿」にがんじがらめになってしまい、とても居心地悪く感じていたのです。
ところがこの本を読み進めるうちに、何十年も前に生まれた人も同じようなことに悩み、その課題と対峙しながら過ごしていたことを知りました。勇気をもらい、美しい自然描写やひとりの女性の生き方、価値観を知ることで、居心地の悪さから少しずつ解き放たれていくような感覚がありました。アンは仕事をしながら子育てや家事もして、でも、そのすべてから離れて自分の時間を持とうとする。
それまで自分の時間を持つことに罪悪感を抱いていた私は、その生き方に励まされ、それでいいんだと思えました。いまでも時々読み返しますし、いずれ英語版でも読んでみたいと思っています。
映画とマンガで、気持ちをリフレッシュ!
日々、分刻みのスケジュールをこなしているので、子どもを寝かしつけた後、お風呂に入りながら映画鑑賞をするのは私にとって最高のリラックスタイムです。その日の気分によって、見る映画を決めています。
もともと『インセプション』や『インターステラー』などで知られる監督、クリストファー・ノーランの作品がお気に入りで、新作はほとんど見ています。いまは少し前にロンドン行きの飛行機のなかで子どもと一緒に見たトム・ムーア監督の『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』が、一番好きな映画です。
アイルランドの神話をもとに、美しい映像と音楽で構成されたこの作品は、家族愛がテーマとして描かれています。実は、この映画は全編英語で見たんです。アニメではありますが、おそらく子どもはストーリーの全部を理解できていないと思います。それでも何か感じるものがあったのでしょうか。ラストシーンでは親子で大泣きしていました。
立場上、仕事では大きな決断をしなければならないときが多々あります。時々ラブコメディーを見て思いきり泣いたり笑ったりすることで、気分が軽くなり、リフレッシュになっています。
最近たまたま見たナタリー・ポートマン製作総指揮・主演の『抱きたいカンケイ』は、恋愛コメディーながら不覚にも涙してしまいました。一方、仕事モードに入りたいときには『プラダを着た悪魔』や『マイ・インターン』などを見て、気持ちを高めます。
実はマンガも大好きで、いまハマっているのは『キングダム』。これを読みはじめると、アドレナリンが出てガンガン仕事をしたくなるんです(笑)。
『宇宙兄弟』や、投資をテーマにした『インベスターZ』もお気に入りです。『インベスターZ』は、中学校の投資クラブが舞台。起業家など、実在の人物も登場します。実際にお金や投資の勉強にもなるのでおすすめです!
本はもちろんですが、映画やマンガも、豊かな人生を送るためには欠かすことのできない大切な存在ですね。
『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』
監督:トム・ムーア
2016年・アイルランド
アイルランドに伝わる神話をもとに、海ではアザラシ、陸では人間の女性の姿をとる妖精と人間との間に生まれた兄妹の冒険を描く。「何げなく選んで見たものなのですが、感情が揺さぶられました。大人にも子どもにもおすすめです!」
HASUNA 代表取締役CEO
英ロンドン大学卒業後、国連機関、金融業界を経て2009年4月にHASUNAを設立。人、社会、自然環境に配慮したエシカルなジュエリーブランド事業を展開。近年では活動の幅を海外にも広げている。