専門家の見方:起業コンサルタント(R)中野裕哲さん

▼日本で優秀なベンチャー企業が育たない2つの理由

ここ5年ほど、欧米などに比べて起業する人の割合が少ないことが問題視され、政府は創業時に使える補助金を設定するなど、テコ入れを図ってきました。ただ、思うような成果は上がっていないのが現状です。

原因は2つあると考えます。ひとつは、わが国では、起業する人を応援し、尊敬するという文化が根付いていない点。欧米では起業に挑戦する人は尊敬され、たとえ1度、失敗したとしても成功するまで再起できる環境が整えられています。一方、わが国では、事業に失敗した人に対する社会的な制裁が厳しすぎます。再起を図ろうとしても、実質的に銀行融資は不可能なのが現状です。無難に会社にしがみついて定年を迎えることを選択する人が増えるのも無理はありません。

もうひとつは、資金を集められる環境が貧弱ということです。個人投資家が起業家に投資するという文化もほとんどないに等しく、日本政策金融公庫をはじめとした少額の公的融資に頼るしかない状況です。しかし、その公的融資を受けるのも簡単ではなく、一定割合の自己資金(貯金)と起業する事業に関する十分な職務経験が必要という要件が邪魔をします。このハードルがあまりにも高いため、貯金が少なく、職務経験が少ない若者や女性、平均給与が少ない業種の会社員などは、意欲があっても起業できないでいます。

このままでは世界に通用するような優秀なベンチャー企業を育てることはできません。数十年単位で考えて国際競争力が落ちる原因ともなるでしょう。これを打開するためにも、ぜひ、個人投資家が起業家に投資しやすくなる環境のさらなる整備、日本政策金融公庫をはじめとした公的融資の要件の緩和、この2つを政策として推し進めることを提言します。

撮影=遠藤素子