「枠じゃなくて、ワクワクを考えよう」

【島田】「~しなければ」だらけですからね。本来、その人が持っている能力や可能性を十分に発揮すれば、すべての人がハイパフォーマーです。そうなれる場所は必ずあるし、それを見つける力もある。それなのに、世間の目とか人からこう思われるとか、見えない枠をはめてしまっています。

私はいつも「枠じゃなくて、ワクワクを考えよう」と言っています。ワクワクは、シンプルな言葉だけれどすごくパワーがあって、それでいいんじゃないかなと思います。

【松山】禅の修行には「すべき」というオーダーが非常に少ないんです。極端に少なくしたうえで、それを突き詰めていく。現代は気を配らなければならないことが山ほどあって、一つ一つの動作が疎かになっています。お寺ではお茶の淹れ方や障子の開け閉めで、この人は何年くらい修行したかがすぐにわかる。にじみ出てくるんですね。

現代人はいろいろとやっているようで何もできていない。私が道場で得た学びは、オーダーは少なくてよいので、一つ一つを丁寧に極めることでした。

【島田】ビジネスでは「70:20:10」という考え方があります。学びや習得を100としたときに、70は実際に取り組む、20は人との関係性、10がレクチャーです。つまり7割は体験からしかわからないから、まずはやってみる。さらに大切なのは、メンバー一人一人をマインドフルに認識しているのかという点。その人の強みに気付けていると、チーム全体で成果を出すために、その組み合わせができます。そして、そこにいる全員がマインドフルであるか、心がそこにあるかを常に意識します。

【松山】そういう意味で、仏教や禅、マインドフルネスがビジネスに役立つことは多々あると思います。ただ、繰り返しますが、役立てようとして取り入れるのではなく、取り入れていたら勝手に役立っていたというのが本来の姿ですね。

松山大耕(まつやま・だいこう)
妙心寺退蔵院副住職
1978年、寺の長男として京都府に生まれる。東京大学大学院農学生命科学研究科修了。3年半の修行生活を経て2007年より現職。16年、日経ビジネス「次代を創る100人」に選出。著書に『ビジネスZEN入門』など。大学院では日本酒を研究していた。
 

島田由香(しまだ・ゆか)
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス取締役 人事総務本部長
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、パソナに入社。幅広い人材関連事業に携わり、米国コロンビア大学大学院で組織心理学修士号取得。GEにてHRマネージメントに携わった後、2008年にユニリーバ・ジャパン入社。14年より現職。幼いころからの関心事は「モチベーション」。
 

構成=富岡麻美 撮影=アーウィン・ウォン