苦手な人と一緒に仕事をしなければならない。どうすれば心を落ち着かせることができるか。佛母寺住職の松原正樹さんは「苦手な人といる時間が早く過ぎ去るようにと願うのではなく、二度と戻らないこの時間を少しでもいいものにしようと思えば、自分の態度が変わります」という――。

※本稿は、松原正樹『心配ごとや不安が消える 「心の整理術」を1冊にまとめてみた』(アスコム)の一部を再編集したものです。

男性と女性のブレインストーミング
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イラだちの原因は「自分だけ特別」という錯覚

どうして自分だけが苦しい思いをするんだ。なぜ自分ばっかり損な役回りを引き受けてしまうんだ。

一見、人を羨んでいるようでいて、自分が自分がの自我の思考に陥ってしまっているときは、一度、顔を上げてみましょう。

目の前を歩いている人と自分の間に境界線はありますか?

そこにいる人と自分に、何か違いがありますか?

自分ばかりが不幸だと、ラインを引いているのはあなた自身です。自分も苦しいけれど、あの人にも苦しいときは必ずある。そう思った瞬間にラインは消え、不幸なのは自分だけではないと気づくはずです。

見えないラインを引いてしまうのは、何も、ネガティブになっているときだけではありません。自分はスペシャルな存在だと思い上がったときにも、他者との間にラインは引かれています。

私は初めて講演をした際、たいへん緊張していました。そんなとき、アメリカの恩師と呼べる女性から「あなたは、教えてあげようと思っているんじゃないの?」といわれ、ハッとしました。

会場にいる人たちも、壇上に立つ私も、同じ人間です。なのに私は、自分が教えてあげる立場なのだと自らラインを引いていたのです。

こんなふうに、自分をスペシャルな存在に祀りあげると、我を見失います。

10分間の実験

私は試しに、自分自身で実験をしてみました。

最初の10分間は、マンハッタンを縦断するレキシントンアベニューという大通りを、「私はスペシャルな人間だ! お前らとは違うんだ」と思いながら歩いてみました。

すると、目の前を歩いている人がジャマなんです。「なんで俺の前を歩いてるのだ!」という思考になってしまいます。赤信号で停まってもチッと舌打ちの一つもしたくなる。面白いくらいに人格が変わりました。

次の10分間は、「みんな、同じ人間なんだ」という気持ちで、同じ通りを歩きました。すると「この人気分が悪そうだな」、「お、この人は派手な服を着ているな」など、さっきまでは見えなかった景色が目に入ってくるようになりました。

同時に、わかっていたことだけれども、同じ人間という価値観の前では、目や髪や肌の色の違い、国籍はまったく気になりませんでした。