東京の地下トンネルで迷ったこともある

ヘルメットのヘッドライトを点け、彼女は自身の担当する工事現場へと足早に歩いていく。トンネル網は上下左右と複雑に入り組んでいて、地図を見ながらでも迷ってしまうことがあるという。

(上)通信ケーブルは水気に弱い。漏水をチェックするのも大切な仕事だ。(下)とう道に入る前は、「ケーブルは絶対に傷つけてはいけない」という上司の言葉を思い出し、気を引きしめる。

「地方都市の『とう道』は、ほぼ一本道なのですが、東京は道がとても入り組んでいて、以前は作業員の方を連れながら迷子になったこともありました」

彼女が担当するのは「空洞補充工」という工事で、とう道内の壁面にできた空洞をモルタルなどで埋めるものだ。とりわけ東陽町の建物の地下から続くこのとう道は、昭和30年代にシールド工法で掘削された古い施設だ。場所によっては老朽化で壁面コンクリートの中性化が進み、それを補強する工事が日々、続けられている。

「保守点検工事と一口に言っても、現場によってやり方が常に違うんです。地下水の多いところもありますし、できてしまった空洞の埋め方にもさまざまな工法があります。その度に新しいことを学ぶ必要があって、そこにこの仕事の醍醐味(だいごみ)を感じています」

現場をよく知る協力会社の作業員たちは、工期に間に合うように手際よく作業を進めていく。彼女は彼らを監督する立場だが、「こいつはダメだなと思われたら、意見を聞かれないまま工事がどんどん進んでしまう。その点は非常にシビアです」と語る。現場の声に押し切られて工事を進めてしまい、上司に怒られた苦い経験もある。

「勉強して、わかった気になっていても、現場ではその知識が役に立たないこともあります。学んでは打ちのめされることを繰り返しながら経験を積み、成長しようともがいている日々です」

石川さんが同社に入社したのは2015年。

大学の理工学部では「社会交通工学」を専攻し、街づくりや都市の景観に関する仕事に就きたいと考えていた。日本コムシスは無電柱化工事でも存在感があるうえ、面接時のアットホームな雰囲気にも惹(ひ)かれて入社を決めたという。