初めての地下「私の知らない世界がここにあるんだ」
7月某日。重い鉄扉を開けてトンネルの中に入ると、ひんやりとした空気が流れていた。
坑道内は少し埃(ほこり)っぽく、染み出た地下水による水たまりが所々にある。まとわりつくような外の暑さが嘘のように涼しい。白熱灯の列が真っ直ぐに続き、換気扇の回る音だけが轟々(ごうごう)と響いている。
東京・東陽町にある建物の地下――厳重に施錠された二重のドアを通り、地下へ向かう入り口をさらに抜ける。そこからどこまでも続くこのトンネルは、「とう道」と呼ばれる巨大地下施設だ。
石川柚希さんの勤務する日本コムシスは、主に通信設備工事などを担う通信建設業界の大手である。事業内容の1つにこの「とう道」の設備工事があり、現在、彼女はこのトンネル内の補修工事を担当している。
壁面には何本もの通信ケーブルが延び、その一本一本が途中の管路に枝分かれした後、電柱などにつながっていく。都内に網の目のように張り巡らされたその総延長距離は約290kmにも及ぶ。
「初めて『とう道』に入ったときは、ジブリの映画の中に迷い込んだようでした。『私の知らない世界がここにあるんだ』って。普段、私たちが見ている外の世界と同じように、この地下にもたくさんの人が働いている現場があるんだと思いました」