期待されなかった新商品が、新市場をつくる大ヒットに

営業が楽しくなり、成績も出せるようになった3年後、本社のマーケティング部門に異動。女性総合職初の商品開発担当者だった。

「営業と違って本社のほうが女性の扱いに慣れていなかったのかな? 同期の男性には初めから商品開発のアイテムがあるのに私は補助的な書類作成の仕事ばかり」

(上)1990年 22歳 アサヒビール入社大阪支社営業担当(下)2000年 32歳 マーケティング部でスーパードライのブランドマネージャーに

それでも「今やれることをやろう」と気持ちを切り替えた。半年後、「スーパードライの市場を食わない新商品を開発しなさい」というテーマが与えられ、開発したのが「アサヒ黒生」だ。

「色が違うからという安直な発想です(笑)。当時、家庭用の黒ビールは見かけませんでした」

家庭に浸透させるため「アフター9のビール」をうたった。広告もなく、上司から「とりあえず、やってみろ」と言われてコンビニに置いてもらった期待されない新商品。ところが発売初日、コンビニから「これはすごい!」と連絡が入る。急きょ広告を準備し、1年後には800万ケースという大ヒット。家庭用濃色ビールという新市場が生まれた。

2000年にブランドマネージャー(管理職)に昇進したのも自身の提案から。スーパードライを担当し、専任のブランドマネージャーを置くべきと思った。それを企画書にして上司に出すと、「提案したんだからおまえがやれ」。

仕事は面白かった。だが周りとのあつれきに悩んだ。言いたいことを言い、やりたいことは提案する姿勢をよしとしない人もいた。

「ブランドを考えるのは社長の仕事と考える人もいます。とんがっている、生意気な女だと思われていたでしょうね。自分の考え方を変えるべきかと悩みました」