やりたいことをやる。それが私の原動力

待ち合わせの場所に颯爽(さっそう)と現れたサツキさん(45歳・仮名)は、細身のジーンズにカットソーというシンプルな服装がよく似合うクールビューティー。都内のIT企業で役員を務めているという。婚歴はなく、子どももいない。

何かしてあげたいと思う相手がいて、入籍する意味があれば結婚するかもしれない。ただ、「経済的に支えてほしい」という理由で結婚することはないと思っている。※写真はイメージです

「若い頃はギラギラしていて、常に男性とおつきあいしていました。不倫も経験したし、2股かけられたことも、逆に2股かけたこともあります。やりたいことは何でもしたけれど、結婚も、子どもを産むことも、その時点で私のしたいことではなかった。私の中ではプライオリティーが低かったということです。子どもが欲しいと言ってきた男性もいたけれど、そうしようとは思いませんでした」

新卒で出版社に勤め、その後は教育関連企業に勤務していたサツキさん。だが、会社の経営方針と自分の思い描く理想との乖離(かいり)を感じて退職。現在は、ウェブサイトの運営に携わりながら、役員として事業拡大を図っている。

「子どもを産むことがひとつの社会貢献だとすれば、私はそれを選ぶことができませんでした。でも、今は事業が私の子どものようなもの。多くの人に喜ばれ、必要とされることが社会貢献になると考えています。会社が大きくなれば、税金もその分多く払うことになりますしね(笑)」

だから自分の生き方に後悔はない。ただ、孫を見せられなかった親に対しては「悪いな」という気持ちがあり、5歳下の妹が産んでくれればいいなとひそかに願っている。

必要なのは家族のように大切に思える人たち

子どもがいない分、自由になる時間は多い。事業戦略を練る一方で、もう1つ、サツキさんが力を入れているのが、福島の生産者と一緒に地方を創生することだ。「これは仕事ではなく趣味なんです」と言いながら、時間ができれば福島の生産者と連絡を取り合い、時には畑に出て土と格闘する。

きっかけは、2011年の東日本大震災だ。道路が開通すると、新聞社に勤める友人とともに現地に足を踏み入れた。

「その時は、被害が大きすぎて私にできることは何もなかったのですが、日を置くうちに、自分にできることを考えるようになって」

今では気心の知れた生産者たちと、ビジネスでないからこそ結べる信頼関係を築いている。

「生きていくうえで大切なのは、自分がきちんと大事にしている人がいるかどうかだと思うんです。もちろん、それは夫や子どもでもいいのですが、結婚しなくても、産んでいなくても出会えるものではないでしょうか」

わが子のように育てる喜びや苦しみが味わえる仕事があり、プライベートでは全力を挙げて尽くしたい、家族のように大切な人たちがいる。きちんと自分の心と向き合って、やりたいことに全力で取り組んできたことが、いまのサツキさんの自信につながっているようだ。

「するのが当たり前」と思われている結婚や出産を「しない」で生きる。その選択を堂々と口にできる人はけっして多くはない。

だが、今回話を聞かせてくれた3人はみな、自身のことを生き生きと語っていた。本当に充実した人生は、第三者が決めた幸福=世間体を捨てることから始まるのかもしれない。

編集=中津川詔子 撮影=市来朋久