「男は替えていい。なぜなら人は成長する生き物だから」。NHK大河ドラマ「篤姫」「江」、連続テレビ小説「さくら」(橋田賞受賞)など、数多くの話題作を執筆してきた脚本家の田渕久美子さんはそう話します。「プレジデント ウーマン12月号」の特集「しない習慣」から、特別インタビューをお届けします――。

子どもの頃から生きるのが辛かった

脚本家とは、人間研究が仕事でもあります。主人公が苦境へ追い込まれるほど、視聴者はワクワクするし、恋愛や結婚生活に悩んでいれば、どう解決するかも考えなければならない。そのためには人間を観察し、人の心を深く掘り尽くす。すべての登場人物になりきり、複雑な人間関係を俯瞰しながら描いていくのが仕事です。

脚本家 田渕久美子さん●島根県生まれ。脚本家・作家。NHKの大河ドラマ「篤姫」「江」、連続テレビ小説「さくら」(橋田賞受賞)など話題作を多数執筆。前向きに生きる女性の姿を豊かな表現で描き、深い共感を得ている。

私も子どもの頃から生きるのが辛く、どうすれば悩みに対する答えを見つけられるのか考え続けてきました。脚本家の仕事は自分の心を見つめ、生きるということを深く考える道でもあったのです。

これまで歩んできた人生も平坦ではなく、女の生き方をたえず問われてきたように思います。最初の結婚では、「この人の子どもを産む」と直感した相手との間に、1男1女を授かりました。

しかし、父母としてだけでなく、男女としての関係にもこだわった私は、彼を人生を通してのパートナーと思えず、娘が2歳の時に離婚。私から言い出したので養育費ももらいませんでした。

ひとりでの子育ては大変でしたが、子どもたちとの生活は満ち足りていたので、もし男性とのつき合いがあったとしても、2度目の結婚をするとは思いませんでした。あるとき、そんな私の前に現れた相手は「君と子どもたちを助けさせてくれないか」と言い、私も彼に会った瞬間に強く魅かれて再婚。知的で優しさにあふれた人でした。大河ドラマ「篤姫」を書いている最中でしたが、あの穏やかで幸せな日々は作品に反映されたと思います。

ところが、彼はがんを患い、わずか2年半の結婚生活で帰らぬ人に。夫を亡くした喪失感の中、息子と娘の留学が重なり、寂しさからうつにもなりました。

人生で最も苦しい時期でしたが、どこかで自分を観察している自分もいました。人はいかに苦しみを乗り越えるものかと。私は「覚悟」という言葉が好きで、「篤姫」でも主人公が苦境に陥る場面で覚悟を決める。覚悟するたびに人間の器が大きくなり、人にも優しくなっていくんですね。