【中野】例えば新聞社でも、個人にツイッターで発信することを認めたり、退職していった社員を応援したりして、優秀な人材を輩出しているというふうに個人が名を上げるとともに会社の評判も上がるというケースもあると思うんですよ。でも、日本企業は社員や元社員を信頼しておらず性悪説に立っているケースも多いですよね。働き方改革ではそれが壁になっているとたまに感じます。

【篠田】終身雇用を掲げてしまうと、「可能であれば、この方はもうお引き取りいただきたい」という社員も、定年まで雇わなくてはいけない。その可能性がある以上、そういう困った社員がいる前提であらゆる仕組みをつくる。そうすると性善説が成立しないし、在宅勤務なんて甘えだという前提での議論になりますよね。中小企業は新卒を採って育成する力が大手より弱いから中途が中心になりがちだし、会社がどんどん変化するから辞める人もいる。結果的に大企業よりも、カルチャーに合わない人を抱え続けなくて済む分、性善説でものを組み立てる思考にいきやすいのかもしれないですね。そう考えると外資系も同じですね。おもしろい。私にとっても発見です。

ほぼ日の職場風景。会社と社員との間にフラットな信頼関係が築かれ、退職しても「卒業生」として関係が続くこともあるのだそう。

子育て中は先が見通せない

【中野】個人の側で言うと、ザ・大企業の男性正社員メインでやってきた世界に女性が入っていったときに、疲弊してこぼれ落ちたり、もっといい環境を求めたりする動きがあると思います。育児中の人にとって、ALLIANCEの世界は魅力的なのでしょうか。わが家は上の子が4歳で下の子が1歳になったのですが、2人目の妊娠前後で転職してしまったので大変でした。子育てをしていると2、3年先すら見通せなくて、焦ったりもするわけなのですが……。

【篠田】わが家は上の子が中1、下が小学校3年になりましたが、子育て中は本当に見通せないですよね。結果的に幼児期をなんとかしのいだという感じですよ。私の場合、当時の職場に外国人女性が多かったことは恵まれていました。事業が非常に忙しいときに2人目を妊娠したのですがフランス人の方が、「妊娠するのに、いいタイミングとかってないから」とキッパリ言ってくれて、勇気づけられました。すでに切り抜けてきている人たちだから、甘やかしもまったくないのですが。母親だからという理由で孤立することがない環境だったから、ハードな仕事も精神的に折れずにできたと思います。

【中野】拙著『「育休世代」のジレンマ』で「過剰な配慮」と呼んでいますが、両立の苦労を知らない男性ばかりの環境で「いいよいいよ」と配慮されると、そこで踏ん張るのは難しい。子どもとの時間を割いてあげたいというほうに、気持ちも時間も寄っていって、なかなか自分のキャリアを優先できないんですよね。

【篠田】でも子育てしながら状況を切り盛りし、その中で求められるアウトプットを出すのがその人の成長につながらないはずがないですよ。

【中野】日々、子育てと会社と、マルチで仕事していますからね。

【篠田】人に任せざるをえないから、マネジメント力も付く。全部自分でやろうとすると、パンクします。