働き方をめぐって、いま「アライアンス」という提案に注目が集まっています。終身雇用は続かないという前提を踏まえ、信頼をベースにした新しい働き方を探るものです。たとえば子育てと仕事の両立を目指す女性は、「妊娠、出産、職場復帰のタイミングが見通せない」という悩みに直面しがちです。しかし信頼がベースにあれば、会社との一方的な雇用関係に縛られずタイミングを決められるといいます。ジャーナリストの中野円佳さんと、ほぼ日取締役の篠田真貴子さんの対談をお届けします。

(左)ジャーナリスト 中野円佳さん(右)ほぼ日取締役CFO 篠田真貴子さん

終身雇用から終身信頼へ

【中野】2015年3月に新聞社を退社して、それ以降個人でモノを書いたりしながら、チェンジウェーブという会社で働きはじめました。個人事業主になって業務委託で仕事を受けたほうがいいかと悩む面もありました。でも篠田さんが監訳されている『ALLIANCE』を拝読して「私は会社とこういう関係を築きたいんだ」と納得したんです。出版からは少し時間が経っていますが、政府が働き方改革を唱える中であらためて『ALLIANCE』に書かれていることを再確認できたらと思っています。

【篠田】この本のメッセージをキャッチーに言えば、「終身雇用から終身信頼へ」です。人は先をある程度見通せる形で、安心して働きたい。でも、自分の力を発揮できる仕事もしたい。これは普遍のことだと思うんです。それができる形がかつては終身雇用だったけれど、今は機能不全を起こしている。そうすると会社側も終身雇用ですよと言いながら早期退職をやるし、働く側も「一生勤めます」と言いながら辞めるという形で、お互いだまし合っているわけですよね。そこで一つの新提案として、雇用関係が永続的には続かない可能性をお互い認めたうえで、それでも信頼し合えるような仕事の決め方なり、関係性のつくり方を工夫しようと。

『ALLIANCE 人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』ダイヤモンド社刊/リード・ホフマン、ベン・カスノーカ、クリス・イェ(著)篠田真貴子、倉田幸信(翻訳)

【中野】そういう整理をしていただくと非常にわかりやすいですね。

【篠田】終身信頼というと、重く聞こえますが、この本で言っているのは、結局、お互い見通せるのは2、3年だから、その単位で、お互いに何を約束できるかというのを話し合いましょう、ということなんです。

【中野】日本企業で成功体験を積んできた人は20、30年先も見えているつもりかもしれませんが……。

【篠田】そう。でも、それも結果論なんですよね。終身雇用という形が形づくられた高度成長期に、そこまで見通していたかは疑問です。結果としてそれを経て、一生勤めあげた皆さんが経営者になったから、自分の成功体験をもって、その再生産を仕組みとして強化していっただけ。それに日本型雇用という名前を付け、それが標準であるかのようなイメージに、自己強化されているのではないでしょうか。

【中野】政府の「働き方改革」も、そういったものが崩れつつある中でどう対処していくかというものに見えますが、違和感がおありですか?

【篠田】私が長銀にいたとき、周りのほとんどの男性は独身寮に入り、多くが社内結婚で同じ間取りの社宅に住んでいました。仕事だけではなく、人生全部が心地よくセットされている状態。終身雇用って結局、「その安定を享受できるのがエリートだ」という社会観と共にあると思うんですよ。でも、こうしたものを享受してきたのは労働者数の2、3割だと聞いています。政策を主に発信する方たち、官庁や経団連、組合に支援された議員がこの2、3割に入るから、それがいかにも日本の保守本流であり、変えるのにすごく大変だという話になっているんだけど、「いや、もうすでに7割が違う雇用形態であり、違う人生を歩んでいるのに」と思います。