どんな仕事に対しても「できます、大丈夫です」

森田さんのピーマンの取扱量は年間450tにも及ぶ。また、東京青果の競りで決まった価格は、全国の商品の価格の基準にもなっていく。「責任の重い仕事をしている」という思いが彼女にはある。

同社では入社3年目になると、競り人になるための試験を受ける。担当する商品を持ち、実際の競りを行うようになるこの時期は、新入社員が「一人前」に成長していく大きな区切りなのだ。

Essential Item●帽子の黄色いバッジは、競り人の資格を持つ者の証し。入荷数を確認する携帯電話とペンも手放せない。

初めて競り人として台に立った日、先輩社員たちも彼女の「初舞台」を周囲で見守っていた。緊張しながらの競りだったが、顔なじみの八百屋や販売店の人々が温かく迎えてくれたのは、いまでも忘れられない思い出である。

その朝の競りが終わった後は、生産者に価格を伝える市況報告や帳面作成を行い、あとは翌日の準備を夕方まで続ける。生産者も量販店のバイヤーも、やり取りをする相手は9割以上が男性だ。よって、最初の頃は気を使われることも多かった、と彼女は振り返る。

「そのなかで意識してきたのは、迷っている姿をなるべく見せないことでした。女性が少なかった業界なので、『大丈夫?』と思われることがどうしてもあります。だからこそ、どんな仕事に対しても、はっきりと『できます、大丈夫です』と言おうって。女性が少ないぶん、きちんと仕事をこなせば顔を覚えてもらえるし、それが信頼にもつながるわけですから」

入社から5年、青果の卸売りを続けるなかで、この仕事の醍醐味(だいごみ)を感じる瞬間も増えてきた。

「担当する品目を持つと、取引先のお客さんを広げるのも、生産者さんとやり取りをするのも、自分の裁量次第。一生懸命に頑張れば、それだけ評価されるところに面白みを感じています」

撮影=邑口京一郎